マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
ドラフト指名ボーダーの選手たちを
大学の監督が自らプレゼン!4/4
posted2020/05/28 11:30
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
CHUKYO UNIVERSITY
大学野球の大きな楽しみの1つに、高校までは影も形もなかったような選手たちが、新たな環境を得て別人のように成長し、快腕として、スラッガーとして、忽然と頭角を現してくることがある。
最終回のこのコラムに登場する学生選手たちは、ほとんどがそうした「新鋭」たちである。
一昨年6月の「全日本大学野球選手権大会」。
3-2と勝ち越した7回、マウンドに上がった中京大・山本一輝(当時2年・180cm81kg・左投左打・東郷高)。以降、9回までのアウト9つを5三振に封じるうちに、打線が追加点を奪って強豪・富士大を破っていた。
左腕投手にありがちな、理由のわからないアンバランスさやぎこちなさが全くなく、理想的なフォームで投げている。
付属の中京大中京をはじめ、全国の名の知れた高校出身がズラリと居並ぶチームの中で、「東郷高(愛知)」というのも興味を惹かれた。
「山本の場合、テークバックからリリースの寸前まで、体の向こうにボールが完全に隠れるフォームで、しかもエクステンションが2メートル3センチということですから…」
体育系の学部にほとんどの部員が学ぶ中京大。就任10年目の半田卓也監督は中京大中京高の出身でもある。
エクステンション……定義すると、リリースの瞬間のプレートとボールを放した指先の距離。つまり、どれぐらい「打者寄り」の空間でボールを放せているのか。もちろん大きい数値ほど、打者寄りで放せていることになり、打者は「体感スピード」に圧倒されるわけだ。
「ウチの投手陣の平均で1メートル7、80。メジャーでも1メートル90弱と聞いています。教えてできることじゃない。自然とできてきたものですから、まさに“天賦の才”ということになりますね」
全く同じ軌道で来る2つの“魔球”。
その富士大との試合。速球のアベレージは140キロ前後なのに、富士大打線がことごとく山本一樹の速球に差し込まれる。
投げ損なって外に大きくすっぽ抜けたような速球に、4番・佐藤龍世(現・西武)が腰を引くようにして空振り三振した場面はちょっと衝撃的だった。
「それぐらい見えないんだと思います、球道が。山本の速球は、計測しても軸の傾きがほとんどなくて回転数も抜群。バックスピン成分の大きな一級品の球質が証明されています。
それに、チェンジアップが速球と全く同じ軌道で来ます。まっすぐか……と思って振り出したところで、スッと動く。スライダーもカーブもありますけど、見づらい上にそういう軌道のチェンジアップですから、速球と共に“魔球”を2種類持っているようなものですね」