酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
槙原寛己以来、完全試合達成なし。
過去と現代野球に見る難易度アップ。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKyodo News
posted2020/05/18 08:00
2020年開幕前時点で、日本プロ野球最後の完全試合を達成した最後の人物・槙原寛己。果たして令和初の大記録は生まれるか。
MLBでは2012年に3回も完全試合。
一方で外木場義郎はノーヒットノーラン3回、藤本英雄、金田正一は2回記録している。こういう投手は、実力でパーフェクトを達成したと言えるが、他の投手は多かれ少なかれ運に恵まれた部分があったと言えるのではないか。
反対に言えば、箸にも棒にも掛からない投手では無理だが、一軍で先発するレベルの投手なら、誰にでもチャンスがあるといえよう。
1950年代は5回、'60年代は5回、'70年代は4回もあった完全試合、'90年代以降は槙原だけ。そして26年も完全試合達成者が出ていないのは、なぜなのか?
確かにこれも「幸運」「偶然」の部分が大きいとは思う。MLBでは、2010年に2回、2012年には3回も完全試合が達成されたが、それ以降はぱたっと8年間出ていない。
槙原の頃と今では完投数が大違い。
しかしながら近年、「完全試合」が出にくい環境になりつつあるとは言えるだろう。
21世紀以降、「投手の分業化」が進んだ。昔の先発投手は「完投」が当たり前だったが、今は7回なら十分に合格点といったところ。先発投手の最低限の責任と言われるQS(Quality Start)は6回を投げて自責点3以下である。もともと9回を投げ切ること自体、期待されていない数値なのだ。
槙原が完全試合を記録した1994年、完投は両リーグ合わせて302もあった。しかし2019年はわずか49。6分の1以下に減っている。
現代の野球では完投は例外的なスタッツになりつつある。ましてや完封はレアな記録になってきたのだ。
もちろん今でも先発投手が無安打、無失点なら降板させられることはほとんどない。
たとえば2019年7月19日の楽天vs.ソフトバンク戦では楽天の美馬学が8回までパーフェクト投球だった。しかし9回先頭の明石健志に四球を与え、栗原陵矢に安打を打たれた。
こういう感じで、今も惜しい快投は年に何度かは記録される。しかし、惜しいところまで投げ切るケース自体が少なくなったように感じる。