ぶら野球BACK NUMBER
こんな時代、いつも心に松井秀喜を。
2冊の著書に滲むゴジラ的楽天主義。
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph byKazuaki Nishiyama
posted2020/05/17 11:40
ジャイアンツのユニフォームを着た松井秀喜をもう一度みられる日は来るのだろうか。
野球以外のことは「まあ、いいじゃない」。
時が経ち、今、あらためて思うわけだ。入団会見で「最近、プロ野球の人気が下がっていると言われていますが、非常に残念なことです。相撲、サッカーなどの他のスポーツに負けることがないように、僕らが頑張って盛り上げたいと思います」と口にした男の覚悟を。
そして、ジャンルそのものを背負うプレッシャーを10代で引き受けた背番号55の凄さを。
2020年、コロナ余波で平穏な日常の象徴・プロ野球がない日々が続いている。そんな中、ふと松井の著書を読み返したくなった。『不動心』(新潮新書)の中では、こんな一文がある。
「大抵のことでは『こうでなければならない』と決めつけないで生活するようにしています。あまり頭を固くしてしまうと、実現できなかったときに、イライラしたり焦ったりして、ペースを乱してしまうからです」
もちろん本職の野球とは真正面からとことんまで格闘する。ただ、それ以外は「まあ、いいじゃない」くらいの気持ちで臨む。ヤンキースへ移籍して大小含めてハプニングが多いアメリカ生活を送る中で、そんな心境に辿り着いたという。
まさに最近、泡ハンドソープが売ってねえなあ……なんつっていつもとは微妙にリズムが違う日常に小さなストレスを感じている心の狭い自分も見習いたいスタンスである。
ゲームが終わり結婚指輪を戻す瞬間。
松井は基本的に仕事の失敗を口に出さない。なぜなら「感情を口や顔に出すと、その感情に負けてしまう」からだという。
さらにもう一冊『信念を貫く』(新潮新書)では試合後の気持ちのリセット法や気分転換について触れ、ゲーム前に外した結婚指輪を薬指に戻す瞬間がオンとオフの切り替えになり、シャワーだけでは流せなかった喜怒哀楽もそれで払拭できると家庭人としての顔も見せている。