“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
児玉駿斗、“早すぎる内定”から2年。
理想はヤットさんのように「楽しむ」。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/05/12 11:30
東海学園大学4年の児玉駿斗。2018年3月、名古屋グランパスへの加入が発表された。
ドリブラーが揃う中で磨いたパス。
児玉はその後、千葉の中央学院高に進学する。選択肢にあった京都橘高と迷うも、「LEO FCで千葉遠征の際に中央学院の試合を観たのですが、みんなドリブルがうまくて、中でも武田拓真(現・ファジアーノ岡山)くんと榎本大輝(現・徳島ヴォルティス)くんの2人がずば抜けていて、『ここでプレーしたい』と思った」と、全国大会出場経験こそないが、ドリブルとテクニックに特化された中央学院に魅せられた。
「(中央学院の)浜田(寛之)監督から『うちはドリブルだけじゃないよ』と言われて、強みであるパスを生かしながらドリブルを磨くことができました。みんなドリブルが上手いので、いかに周りのいい状態の選手にパスを出せるか、周りに合わせることをメインにしていました」
技術を磨き上げながらも、児玉の代も全国大会とは無縁だった。3年間県リーグでプレーし、高2のインターハイ予選は1次トーナメント初戦で千葉日大一に2-2のPK負け。その年の選手権予選は準決勝に進むも市立船橋高に1-2で敗れ、高3のインターハイ予選では決勝トーナメント初戦で流通経済大柏高に残り1分で決められて0-1の敗戦。選手権予選では決勝トーナメント2回戦で八千代高を相手に1-1からPK負けを喫した。
「勝敗は当時からあまり気にしていませんでした。インターハイ予選や選手権予選で早い段階で負けても、全国に行けない悔しさはありませんでした。最後の大会で八千代に負けた時も『あ、高校サッカー終わったな?』という感覚でした」
そうあっけらかんと話す彼だが、決して「勝たなくてもいい」というわけではない。
「楽しむ」ために必要な準備。
「周りからすると『やる気がない』とか、『勝つ気がない』とか思われてしまうと思うのですが、僕はただただ今よりももっと上手くなりたいんです。もちろん負けていいとは思っていませんが、逆に勝ったから全て良しとは一切思いません。自分たちがやりたいプレーができずに勝って、ヘラヘラしている人を見ると腹が立ちます。『なんでそうなれるの? あれで納得してるの?』と思うんです。
僕はサッカーに関しては常に矢印を自分に向けている。その目は厳しいと思っています。決して全国に行かなくていいとか、勝てなくていい、楽しければなんでもいいのではなくて、『楽しい=自分の技術がきちんと発揮できている』ということなので、その時間を90分間の中で作り出すために万全の準備をするんです。
この準備を怠ると試合で楽しめることは絶対にないと思っているので、試合までは毎日の練習はもちろん、食事や生活面も配慮しながら準備をして、いざ試合となったら『さあ、今日もとことん楽しむぞ』と思うんです。それは相手がどこであろうが、どういう試合なのかは一切関係ないんです。どの試合に対しても変わらぬモチベーションで臨んでいます。楽しむことに関して、甘えがあるのが嫌なんです。それはずっと変わらないです」
彼にもプロサッカー選手になりたいという目標はあった。だが、全国の檜舞台で自分を表現してプロになりたいと思うより、コツコツと自分のために自分を磨くという単純作業をブレずにやり続けた。
「舞台はどこであれ、自分のプレーをしっかりと出し続けていればどこかで必ず見てくれる。それに『高卒で何が何でもプロ』という考えはなくて、自分が楽しみながら、常にベストなプレーを出せるように心がけ続けた先にプロがあると思っていました」