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『フェデラーの一瞬』は奇書で傑作。
作家がスポーツを描くスリルと愉快。

posted2020/05/13 07:00

 
『フェデラーの一瞬』は奇書で傑作。作家がスポーツを描くスリルと愉快。<Number Web> photograph by AFLO

2005年のフェデラーは2つのグランドスラムを手にし、勝率が95%を超えた。その「一瞬」に著者は出会ったのだ。

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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AFLO

 20世紀の偉大な作家のひとりであるジョン・アップダイクは、こう書いた。

「スポーツライティングというものは、扱うボールが小さければ小さいほど、面白いものである」

 この意見に全面的に首肯するつもりはないけれど(私自身、ラグビーを書くことが好きだから)、アップダイク自身はゴルフ、野球を書くことを愛した。彼の論を借りれば、テニスもかなり有望な競技である。

『フェデラーの一瞬』は、奇書であり、そしてまたテニス本の中では、傑作の列に加わる作品だと思う。

 著者は1995年に1000頁を超える長編、『無限の道化』を著したデイヴィッド・フォスター・ウォレス。この本はミリオンセラーだったという。

 作家によるスポーツライティングはユニークな視点が特徴的だが、5編の中編が収められた『フェデラーの一瞬』は、奇妙なスタートを迎える。

なぜか数学に大きなスペースが。

 ウォレスはジュニア時代、アメリカ中西部で鳴らしたテニスプレイヤーだったが、その時の思い出を「『竜巻通廊』の副産物スポーツ」で綴る。

 この一編は、数学に大きなスペースが割かれている。テニスの本なのに、だ。この時点で、奇書の条件は十分にクリアしている。

 なぜか?

 著者のウォレスはアマースト大学で数学を専攻しており、数学的発想が子どもの頃から身についていたようだ。その延長線上で、テニスを数学的な視点から語っていくのだが、言葉のチョイスが難解で、私は投げだしそうになった。

 ただし、私は読み始めた本を途中でやめたことが生まれてこの方一度もないので、読み続けたのはその習性による。そして、その甲斐あって傑作と出会えた。

【次ページ】 「決闘」の気配が立ち込める文章。

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