オフサイド・トリップBACK NUMBER
サッカーは危機管理の知恵が満載だ。
「社会的なポジショナルプレー」を。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byAFLO
posted2020/05/03 11:50
人間とスペースについての考え方、そして未知なる戦いの勝ち方がポジショナルプレーには詰まっている。
現状は、素人が代表で戦うようなもの。
日頃はまともに体を動かしたことさえないような人間が、いきなり日本代表に招集されてW杯のピッチに立つ。あるいは草サッカーのチームがCL決勝に担ぎ出されて、突如として現れた謎の強豪チームと対戦させられる。僕たちが置かれた状況は、こんな風にもたとえられるかもしれない。
正直、旗色はあまり良くない。「絶対に負けられない戦い」が幕を開けるなどとは夢にも思っていなかったし、敵の攻撃力は強大で未知数。おまけに非常に小柄で目には見えないため、気がつけば防戦一方にまわることを余儀なくされてしまった。
だがチーム一丸になって粘り強く戦えば、潮目は少しずつ変わっていく。相手の猛攻をしのぎ続けていけば、世界中が研究を進めている起死回生の攻略法が完成し、期待のスーパーサブとしてピッチ上に投入される瞬間がやってくるに違いない。
これが、スポーツが持つ真のチカラなのでは。
そのために今、最も必要とされているのはタフな精神力と、安易な美談や根性主義に走らない合理的なアプローチ、そしてペップからお墨付きをもらえるような「社会的なポジショナルプレー」を実践していくことになる。
日本代表やJリーグ、欧州サッカーの滔々たる歴史は、この世に不可能なことなど存在しないことを教えてくれる。ある意味、それこそがスポーツが持つ真のチカラではないだろうか。人間が秘めたポテンシャルが想像よりもはるかに大きいことは、昨年行われたラグビーW杯で、日本中の誰もが実感したはずだ。
テレビモニターの前に座り、過去の映像を眺める時間が増えれば増えるほど、未来への夢と確信はますます強く、大きく、揺るぎないものへとなっていく。長く熾烈な戦いに勝利し、多くの仲間とスタジアムで感動的な再会を果たす。そして晴れ晴れとした気持ちで、スポーツの試合を思いっきり楽しむ。そんな日は必ず訪れるはずだ。