ボクシングPRESSBACK NUMBER

「貧乏すぎて公園の土管で寝ていた」…8年のブランク→75秒KO負けデビューから“世紀の番狂わせ”まで成り上がった木村翔の波乱万丈ボクサー人生

posted2025/05/12 11:02

 
「貧乏すぎて公園の土管で寝ていた」…8年のブランク→75秒KO負けデビューから“世紀の番狂わせ”まで成り上がった木村翔の波乱万丈ボクサー人生<Number Web> photograph by Tadashi Hosoda

2025年4月、“世紀の番狂わせ男”木村翔は万感の思いで引退興行を行なった

text by

杉園昌之

杉園昌之Masayuki Sugizono

PROFILE

photograph by

Tadashi Hosoda

2025年4月、引退興行のリングに立った木村翔。「世紀の大番狂わせ」と呼ばれるタイトル奪取を果たした男は、いかにしてどん底からビッグチャンスをつかんだのか? 波乱万丈のボクサー人生を語った。〈NumberWebインタビュー:全3回の1回目/つづきを読む

 世紀の番狂わせで人生を大きく変えた36歳は、すっきりした表情で引退の10カウントゴングを聞いていた。

「すべてひっくるめて、いいボクシング人生だった」

最初で最後の国内メイン興行

 WBO世界フライ級王座を2度防衛した木村翔はしみじみと話す。2025年4月27日の引退興行は手売りでもチケットをさばき、生まれ育った埼玉県熊谷市のくまがやドーム体育館に2000人以上を集めた。雑草根性で上り詰めた、生き様に惚れた人も多かったのかもしれない。

ADVERTISEMENT

 国内で主役の座を用意され、興行が打たれたのは初めてだという。「最後にメインで出来て良かったです」と柔和な笑みを浮かべていた。

 元世界3階級制覇王者の八重樫東を迎えてのエキシビションマッチ。無名の日本ランカー時代にスパーリングパートナーを務め、何度も拳を交えた先輩である。リングに向かう暗い花道で思い出深い入場曲を聞くと、自然と気持ちが高ぶってきた。お気に入りのしんみりした曲調だ。

人生を変えた試合の入場曲

 8年前のあの日の記憶もよみがえる。当時は敵地に呼ばれた、“Bサイド”の引き立て役。“Aサイド”のメインキャストは、2大会連続で五輪の金メダルを獲得した中国の英雄だった。

「竹原ピストルさんの『Forever Young』を使い始めたのは、(2017年7月28日の)ゾウ・シミン戦からなんです。上海オリエンタルセンターには、1万5000人の現地の観客が入っていました。完全アウェーのなか、あの曲が流れてきたときは泣きそうになりましたよ。俺もやっとここまできたかって。すべてがフラッシュバックしてきた感じかな。

(過去の自分がいまにも生きているという趣旨の)歌詞が好きでね。練習中、ロードワークのときも、この歌詞を聞きながらモチベーションを上げていました。4回戦ボーイの頃は本当に貧乏だったし、僕の場合、ボクシングを辞めていた時期もあったから……」

【次ページ】 熊谷から頭角を現した中高時代

1 2 3 4 NEXT
#木村翔
#八重樫東
#ゾウ・シミン

ボクシングの前後の記事

ページトップ