オフサイド・トリップBACK NUMBER
サッカーは危機管理の知恵が満載だ。
「社会的なポジショナルプレー」を。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byAFLO
posted2020/05/03 11:50
人間とスペースについての考え方、そして未知なる戦いの勝ち方がポジショナルプレーには詰まっている。
グアルディオラによる簡潔な定義。
では「ポジショナルプレー」とは、そもそもいかなる戦術なのか。
ペップ本人による定義は簡潔にして明快だ。
「ピッチ上のどこにボールがあるかを踏まえて、選手たちが正しいポジショニングをしていこうとする考え方。これを実践してシステムを機能させるためには、ディシプリンと思考能力の速さが必要になる」
詳しくは2年前にナンバーウェブに寄せた拙稿(https://number.bunshun.jp/articles/-/829947)をお読みいただきたいが、ポジショナルプレーは攻撃のためだけの発想でもないし、単に数的優位を作り出すための方法論でもない。ペップの言葉を再び引用しよう。
「ポジショナルプレーという発想は、自分たちがボールを持って攻撃している時でも、逆に相手に攻撃されている時でも当てはまる。
ポゼッションを失った時には、選手たちはすぐにボールを奪い返すために、正しいポジションを取らなければならない。すぐにボールを奪い返せない場合には、カウンターアタックを受けないために、やはり正しい位置につく必要がある」
ポジショナルプレーが浸透していくと、選手は攻守両面で幅広い役割を担うようになるため、ピッチ上では「ジェネラリスト化(各ポジションの融合)」と、ゲーム展開の劇的な高速化が同時に起きていく。ペップのアプローチが戦術進化はもとより、サッカーという競技そのものに、パラダイムシフトをもたらしたと評される所以だ。
人と空間の有効利用。
攻守のシームレス化、各選手が担う役割の融合、ゲームスピードの向上……。
勘の良い方は、おそらくピンときたのではないだろうか。一連の変化は、実はサッカーだけで起きている現象ではない。バスケットボールやアメフト、ラグビー、水球、バレーボール、ひいてはアイスホッケーやグラウンドホッケーに至るまで、似たような現象はパラレルワールドのように、ほぼすべてのボールゲームで見られる。
理由は簡単。1つのボールを巡って複数の選手が自由にポジションを変えられる競技では、「選手」という人的リソースを用いながら、「スペース」という物理的なリソースをいかに活用するかが勝負のカギを握るからだ。人材と空間の有効活用は、「時間」という最も貴重なリソースを生み出すことにもつながっていく。