「結局、部活に来ているのは……」

　小川は天王寺高校出身。「公立ならではの高校野球」を目指す名将・政英志前監督の最後の弟子にあたる。

「政監督は、野球だけやっていたらあかんよ、学生生活がちゃんとできなかったら野球やる資格はないよ、と言っておられました。僕も部活動をきっかけに人間性を育てないと、と思います」

　大学では社会科教育を学び、高校の教師を目指しているが、野球部の指導をすることは考えていない。

「父も教師でサッカー部顧問でした。部活第一で、ほとんど家にいませんでした。今はだいぶ緩和されてはいますが、高校で部活を持っている先生は、家庭を犠牲にすることになります。だから躊躇します。

　結局、わざわざ時間を使って部活に来ているのは、楽しいからだと思います。

　高校までは“練習、イヤやな”と思う選手が多かったと思いますが、大学では1人でもそう思ってしまったらダメでしょう。それは監督やキャプテンの責任だと思います」

教育大が野球指導で果たした役割。

　一般的に「高校野球」、「大学野球」と言えば甲子園や神宮で活躍し、プロ野球に選手を多数輩出するような学校のことをイメージしがちだ。

　しかしそうではない「野球」も存在する。

　2006年に公開された米映画「KOKOYAKYU　HIGH　SCHOOL　BASEBALL」では、前述のキャプテン小川慎太朗の恩師である天王寺高校、政英志前監督の指導ぶりが如実に描かれた。政監督は、選手に野球から多くのことを学ばせるとともに「生涯、野球好きにする」ために選手を指導していた。

「甲子園何勝」の名将とは別の次元で、日本野球界には隠れた名指導者がいて、日本野球の良質の部分を醸成してきたのだ。

　実は、戦前の師範学校の流れをくむ教育大学は、野球指導でも大きな役割を果たしてきた。

　昨年、日本高野連が立ち上げた「投手の障害予防に関する有識者会議」の副座長を務めた筑波大学（旧東京教育大学）の川村卓准教授は、筑波大学硬式野球部の監督でもあるが、教え子には昨年のドラフトの目玉、佐々木朗希の恩師である大船渡高校、國保陽平監督もいる。

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