酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「公立校野球部のモデルケースに」
奈良教育大、学生監督の指導法とは。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2020/04/22 07:00
奈良教育大の山口裕士監督。「教育大」というカテゴリーの中で、どこまで自分たちの力を伸ばしていけるか。
多様なニーズを受け入れる場所を。
彼の決意が並々ならぬものであることは、この年末年始にドミニカ共和国の野球を視察したことからもわかる。奈良市教育委員会の「トビタテ! 留学JAPAN日本代表プログラム『地域人材コース』『奈良を「開く」人材』グローバル人材育成プロジェクト」を利用して、2カ月にわたって現地の野球をつぶさに見て回ったのだ。
「スペイン語はできなかったのですが、地図やガイドブックを見ながら、いろんな施設を見て回りました」
オリンピック用施設を使って子どもたちに野球を教える「セントオリンピコ」、「ペドロ・エンリケ・ウレーニャ大学」の野球アカデミー、元マイナーリーガーの島袋涼平氏が主宰するものや、元MLB監督のマニー・アクタ氏のアカデミーなど。
山口はこれらの施設をつぶさに見て歩き、身振り手振りも交えて指導者に話を聞き、ときには選手に交じってプレーもした。
「いろんなレベルの子どもが野球を学べる環境があった。その多様性が素晴らしいと思いました。日本でも、本気で甲子園やプロ野球を目指す子どもがいる一方、ただ遊びで野球をやりたい子もいます。そうした子どもの様々なニーズを受け入れることができる場所が必要ではないかと思いました」
“野球に対する好感度”のグラフ。
山口が奈良教育大野球部で目指しているのは「野球を楽しむ」ということだ。
野球部の部室の壁には、線グラフのようなものが描かれた紙が貼ってある。多くの線は乱高下している。
「これは、選手たちの“野球に対する好感度”のグラフです。自己申告で書いてもらいました。みんな一度はどん底になっているでしょう? 少年野球や高校時代に、ハードすぎる練習やパワハラまがいの指導を受けて、野球が嫌いになった時期があるんです。
そういう選手に、もう一度野球を好きになってもらって、野球を楽しんでほしい。そう思っています」