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ハンド界期待の部井久アダム勇樹。
石川祐希に倣う欧州移籍と急成長。 

text by

石井宏美

石井宏美Hiromi Ishii

PROFILE

photograph byAFLO

posted2020/04/21 11:00

ハンド界期待の部井久アダム勇樹。石川祐希に倣う欧州移籍と急成長。<Number Web> photograph by AFLO

パキスタン人の父を持つ部井久アダム勇樹。博多高校時代から日本代表に選出されるなど、ハンドボール界の期待の星だ。

監督も実感する部井久の成長。

 目を見張るような「個」のレベルアップ。部井久の変化に、実方も目を細める。

「あれだけのポテンシャルを持った選手ですが、入学当初はまだ粗削りでした。例えば、シュートスピードは速いけれど、シュートに行くまでのタイミングや、走り方などが全然できていなかった。それが最初の1シーズンで巧さが加わっていました。常に身長190~200cmの選手を相手にプレーしているので、いろいろ考えてプレーするようになったのでしょう。それに、(シュートまでの)間の取り方やタイミングは向こうで相当教え込まれたんだと思います。私が想像していた以上にうまくなっていましたし、2シーズンで見違えるほど成長しましたね」

 ハンドボールに限らず、18~22歳の4年間がアスリートとしての能力が最も伸びる時期だと言われている。身体的には中学から高校時代の成長が最も著しいが、人間は20歳を超えるタイミングで精神的に大人になり、さらに筋力が発達するなど、体力的にもより成長が促される。

 特に精神的な成長は顕著で、指導者のアドバイスをもとに自身で考え、そしてトライすることがより出来るようになる。だからこそ、大学在学中からヨーロッパでプレーすることはハンドボールスキルの成長を促進すると考えられる。

 部井久の成長に手応えを得た実方は、大学時代に海外で経験を重ねることに大きな意味があるとあらためて実感している。

「もともと部井久はハンドボールに向き合う意識が高い選手なので、仮に中大にいてプレーしていたとしても、うまくはなっていると思います。ただ、それがより高いレベルでプレーすることで、成長のスピードが速くなったり、プレーの幅が広がる。今は(海外での)シーズンが終わってどれくらい成長して帰ってきてくれるのか、それを感じられることが楽しみなんですよ」

彼らの海外進出は、競技の底上げに

 石川と部井久は開拓者であり伝道師という立場を自覚しつつも、自分の足りないところのみならず、他の選手やチームとしての視点、日本代表としての視点を見渡し、コート内外で的確に表現している。なによりも、各々の競技と向き合う姿勢や、彼らを突き動かす思いは非常にシンプルで分かりやすい。

 ただ、彼ら2人のように、大学に在籍しながら海外挑戦できる選手は、まだほんのひと握りだ。

 海外では日本では通用していたことが通用しなくなる。言葉はもちろん、自分に対する周囲の評価や反応も異なる。そういった違いに戸惑うこともあるだろうが、観察力や想像力が磨かれ、広い視野を養うことにもつながる。そういった経験は技術力の向上のみならず、人間力にもつながる。それが10代後半~20代前半で経験することは、選手個人の財産になることはもちろん、チーム、そして競技の底上げへと繋がっていく。

 現在、世界各地で新型コロナウイルスの感染が拡大し、スポーツ界でもリーグ中断が余儀なくされている。石川はセリエAのリーグ中止でプロ2シーズン目を終えた。また、部井久も3月中旬にフランスリーグが中止となり、すでに帰国している。自分たちではどうにもならない現実、困難な状況を迎え、彼らの心も揺れている。しかし、今は待つことしかできない。1日も早くこの緊急事態が収束し、また、彼らが競技に専念できる日々が戻ってきてほしい。

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