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南スーダンを平和へ導く“スポーツ大会”。
対立する民族が一堂に会し、寝食を共に。

posted2020/04/16 11:00

 
南スーダンを平和へ導く“スポーツ大会”。対立する民族が一堂に会し、寝食を共に。<Number Web> photograph by JICA

勝ったチームは笑顔で踊り喜ぶ。紛争が奪った明るい感情がここで生まれている。

text by

熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

PROFILE

photograph by

JICA

友成晋也

今回の冒険者
友成晋也さんShinya Tomonari

1964年、東京都生まれ。現・JICA南スーダン事務所所長。中学から大学まで野球一筋。慶大卒業後、民間企業を経てJICAに転職し、ガーナなど各地に赴任。'03年にアフリカ野球友の会を創設するなど、野球を通じた国際交流をアフリカ8か国で展開。

 2018年夏、“世界一若い国”南スーダンに降り立った友成晋也は違和感を覚えた。

「この国の子どもたちには、弾けるような笑顔がない。なぜだ……」

 過去に赴任した同じアフリカのガーナやタンザニアには、貧しくても弾けるような笑顔があった。それが見られないのだ。

 無理もない。

「独立前の同国は、南部を冷遇する北部への敵対心で結束していました。しかし'11年に独立して共通の敵がいなくなると民族対立が激化し、武力衝突によって多くの死傷者が出ました。その結果、国民の3割強が国内外に逃れることになったのです」

当初は敵意や偏見を持っていた若者が。

 荒廃した国を立て直そうと、JICAが行なっている活動がある。「国民結束の日(National Unity Day)スポーツ大会」だ。

 '16年に始まった大会は、いわば国体の南スーダン版。だが、開催には困難が伴った。64の民族が暮らす同国では民族対立が絶えず、共にスポーツをすることなど考えられなかった。開催地の首都ジュバは治安が悪く、地方では「行けば命の保証はない」という物騒な噂も流れた。だが「スポーツが平和を促進する」という信念のもと、JICAは大会を実現。その後、武力衝突が起きても懸命の努力で大会を継続させてきた。

 州ごとに選抜された20歳以下の若者が、9日間に渡り、陸上、サッカー、バレーボールなどで勝敗を競う大会は、友成いわく「スポーツの大会を超えた価値がある」。

「全国から集まった300人以上の若者が、寝食を共にしながら“同じ釜の飯を食べた仲”になっていきます。大会中は平和について語り合うワークショップも行なわれ、当初は敵意や偏見を持っていた若者が互いに心を通わせていく。大会で仲良くなった若者たちが翌年の大会で再会し、喜びのハグを交わす様子は感動的ですよ」

 大会はすでに5度開催され、目に見える成果が表われ始めた。

【次ページ】 「多民族の友だちがたくさんできたよ」

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