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帝京大・中野監督の葛藤と危機感。
「来年の箱根駅伝は想像できない」 

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和田悟志

和田悟志Satoshi Wada

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posted2020/04/17 11:00

帝京大・中野監督の葛藤と危機感。「来年の箱根駅伝は想像できない」<Number Web> photograph by Satoshi Wada

帝京大の中野孝行監督は2005年に就任、今年まで3年連続シード権を獲得するなど強豪校に育てた。

ニューヨークへ出発する日の朝に。

 2月に入り、国内でも少しずつ感染が拡大し、様相はずいぶんと変わってきた。3月1日には東京マラソンが開催されたが、帝京大からは選手5人が出場を予定し、中野監督も一般ランナーとしてエントリーしていた。

 だが、規模を縮小してエリートの部のみで実施されることが2月17日に決定されると、その後も大会自体の開催の是非が議論された。このような形で、新型コロナウィルスの影響を身近に感じ、中野監督はいっそう危機感を募らせたという。

 さらに追い打ちをかけたのはニューヨークの感染爆発だ。実は、3月15日に予定されていたニューヨークシティハーフマラソンに小野寺悠(4年)が招待されており、中野監督も同行予定だった。渡航準備を進めていた頃は、まだニューヨークの感染状況はそれほどではなかったし、小野寺は、他のレースを回避してまでこのレースに照準を合わせており、中野監督も出場させるつもりでいた。

 しかし、出発日の朝に大会中止が決まり、結局はアメリカに渡航することはなかった。ニューヨーク市が非常事態宣言を発令したのは、その2日後のことだった。そこからわずかな期間でニューヨークの感染者数は一気に膨れ上がり、その1カ月後には10万人に達した。

「1カ月後にこんな状況になるとは思いもしませんでしたね。もし行っていたら大変なことになっていたかもしれません。感染していた恐れもあるし、無事に帰国しても、2週間は自宅等に隔離され、何もできなかったでしょう。小野寺には申し訳なかったけど、結果的には、行けなかったことは良かったのかもしれません」

寮生活だが、帰省した学生も。

 現状では、学生たちは寮に留まり、不要不急の外出を自粛している(8人は保護者の要望により帰省した。「こればかりは強制できなかった」と中野監督)。食事時は、対面と隣の席を1席ずつ空けて座り、食事中の会話も禁止。また、消毒液を入れたスプレーボトルを1人1本携帯するなど、これまで以上に予防を徹底させている。

「学生たちにはものすごく不便を強いているのは間違いない」と中野監督は歯痒さを口にする。

「でも、この行動は自分たちを守るためでもあるし、みんなを守るためでもある。それは、当たり前の生活を取り戻すためでもあるんだよね」

【次ページ】 大会の中止は残念だがほっともした。

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中野孝行
帝京大学

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