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革命前チェルシーの光だったゾラ。
“魔法使い”が残した素敵な宝物。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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photograph byGetty Images

posted2020/04/14 11:50

革命前チェルシーの光だったゾラ。“魔法使い”が残した素敵な宝物。<Number Web> photograph by Getty Images

アズーリでR・バッジョの陰に隠れる形となったゾラだが、チェルシーでは誰よりも愛されるアイドルだった。

通算80得点、うち14本は直接FK。

 ゾラがチェルシーの公式戦で決めた計80ゴールは、そのすべてが名場面のようなものだ。1996年12月、パルマから移籍して4試合目のエバートン戦で記録した初得点からして、ゴール右上隅への27mのFKときている。

 14点をもたらしたFKは芸術の域。しかも、努力の賜物だ。30代になっても居残り練習を続けたゾラに影響を受けた後進には、2001年にチェルシー入りし、後に自らも若手の手本となるフランク・ランパードもいた。

 磨き上げられた技術はプレースキックだけではない。

 ボールが吸い付くようなタッチそのものが正確無比。スパイクに消音器でも付いているかのようにパスをコントロールしてみせる選手となると、近年のチェルシーではエデン・アザールぐらいしか思い浮かばない。

 ゾラは相手DFが飛び込んできても、スペースが限られていても、平然としていた。

 例えば、1997年2月のマンチェスター・ユナイテッド戦。デニス・アーウィンのスライディングタックルを軽くかわすと、右サイドからさらに2人をかわしてスルスルとゴールを決めている。これには守護神ピーター・シュマイケルも立ちすくんだままだった。

 その2カ月後のFAカップ準決勝でのゴールは、大会史上屈指の名作である。ヒールでのファーストタッチで反転してシュートを打つとは、ウィンブルドンのGKも3万人を超す観衆も予想できなかった。

庶民に愛された笑顔の絶えない名手。

 加えてピッチ上での笑顔も絶えない名手が、サッカー好きのイングランド庶民にクラブの垣根を越えて評価されたのは当然のことである。

 スタンド前列のニューカッスル・サポーターと、試合後にユニホームを交換する姿も目撃した。記者陣も前年11月の加入だったゾラを、いきなり1997年の年間最優秀選手に選出。プレミア在籍半年でFWA(記者協会)の同賞に輝いた選手など他にはいない。

 ゾラは、前年受賞者エリック・カントナ(マンチェスター・ユナイテッド)のように強烈なカリスマ性を漂わせてはいない。ゾラの翌年に選ばれたデニス・ベルカンプ(アーセナル)とは違い、フィジカルに恵まれていたわけでもない。また、その翌年に受賞したダビド・ジノラ(トッテナム)のように、その容姿からしてスター風というわけでもない。

 それでいて、ピッチに立てばスーパースターなのだから余計に惹かれた。

【次ページ】 「ミセス・ゾラよ、あなたしか」

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