プレミアリーグの時間BACK NUMBER
革命前チェルシーの光だったゾラ。
“魔法使い”が残した素敵な宝物。
posted2020/04/14 11:50
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph by
Getty Images
2003年5月11日、チェルシーは運命の決戦に臨むことになった。
スタンフォード・ブリッジでの2002-03シーズン最終節。ホームに迎えた相手は、得失点差のみで追いすがるリバプール。プレミアリーグの頂上対決ではなく、4位対5位の直接対決ではあったが、その重要性はクラブ史上初の欧州制覇を成し遂げた2012年CL決勝にも引けをとらない。
早々にサミ・ヒーピアのヘディングでリードしたリバプールが勝っていたら、ロマン・アブラモビッチによる翌月のチェルシー買収はなかったはずなのだ。
100億円台の負債ごとクラブを買い取ったロシア人富豪は、華やかなCLの舞台に魅せられて買収先を探していた。ジェラール・ウリエ率いるリバプールが「4位決定戦」を制していれば、最後のCL出場枠を逃したプレミア5位には手を出さなかっただろう。
あの一戦に敗れていれば、チェルシーにとって“オイルマネー”注入による成り上がりなど夢のまた夢。それどころか経営破綻の悪夢が現実となっていた可能性が高い。
デサイー、グロンキアの値千金弾。
幸い、チェルシーはポイント獲得に成功した(2-1)。相手CBによる前半11分の先制点は、2分後に自軍CBが帳消しにした。
マルセル・デサイーがセットプレーからのヘディングでネットを揺らした。27分には4位フィニッシュがほぼ確定する。ウインガーのイェスパー・グロンキアがファーポスト内側に逆転ゴールを決めたのだ。ただ数年後、本人は「右サイドからのカットインで3、4人を抜いて打った」と回想しているが、そこまでの名ゴールではなかった。
かわしたのは左SBのヨン・アルネ・リーセのみ。軸足を滑らせたシュートには「まぐれ説」もある。とはいえ、アブラモビッチの私財投入に繋がった「価値10億ポンド」とも言われるゴールであることは間違いない。
後半、GKのファンブルにつけ込んだリバプールのミラン・バロシュが同点ゴールをもたらしたかと思われた。しかしシュート前のハンドでゴール無効の判定が下る。
続いて、そのチャンスをロングパスで演出したスティーブン・ジェラードが弾丸ミドルを放ったが、今度はカルロ・クディチーニがキャッチ。88分には焦りと苛立ちを募らせたジェラードが2枚目のイエローをもらって退場となるなど、敗者が苦渋を舐めるドラマのなかでチェルシーが4年ぶり2度目のCL出場権を手に入れた。