プレミアリーグの時間BACK NUMBER
革命前チェルシーの光だったゾラ。
“魔法使い”が残した素敵な宝物。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2020/04/14 11:50
アズーリでR・バッジョの陰に隠れる形となったゾラだが、チェルシーでは誰よりも愛されるアイドルだった。
アブラモビッチは引き留めたが。
試合が終わると、ホームでの最終戦恒例のチーム場内1周を待つスタジアムでは、スクリーンにシーズンのハイライトが映し出された。スピーカーからは、70年代にボンド映画の主題歌としてヒットした『ノーバディ・ダズ・イット・ベター』。
「誰もあなたのようにはできない」と始まるバラードをBGMに、ゾラのハイライト集も同然の映像を眺めていると、CL復帰が決まった直後でありながら感傷的な気持ちになった。
カリアリへの移籍が伝えられたのは、2カ月後の7月2日。実は前月にチェルシーのオーナーとなったアブラモビッチは引き留めに動いていた。それどころかカリアリ買収まで考えたと言われている。
それでも、肝心の選手自身は「その気持ちだけで十分」という返答だった。
巨万の富を得たチェルシーに翻意を請われても、当時イタリア2部にいた故郷サルデーニャの地元クラブとの約束を守った去り際も、ゾラらしい。
その半年ほど前、ファン投票でチェルシー史上の「グレイテスト」に選ばれていた英雄は、念願のプレミア優勝メダルを手にすることなくクラブを去った。
だが、ファンの胸には幾つものかけがえのない思い出を残してくれた。個人的には、後日サインを入れてもらったツーショットという宝物もある。
私にとって、当時も今も「ゾラ以上」はいない。