プレミアリーグの時間BACK NUMBER
革命前チェルシーの光だったゾラ。
“魔法使い”が残した素敵な宝物。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2020/04/14 11:50
アズーリでR・バッジョの陰に隠れる形となったゾラだが、チェルシーでは誰よりも愛されるアイドルだった。
「ミセス・ゾラよ、あなたしか」
168cmの身長は、中肉中背の筆者よりも低い。まだチェルシーが大学のグラウンドで練習していた頃、見学後に撮ったツーショットでは同じ背丈に見えるのだが、ゾラはニコニコしながら足元にあったブロックの上に乗ってカメラに収まってくれた。
そんな茶目っ気もある彼と自分は同い年。どこか身近に感じてしまうヒーローでもあった。
チェルシーの背番号25がいなければ、英国在住ライターとしての現在はなかったかもしれない。駐在員4年目に帰国の辞令を受けた1998年、ロンドンに残りたかった理由の1つは、ゾラのプレーを生で見ることのできる幸せだった。
ゾラ当人に帰国の噂があった2000-01シーズン、筆者は主に音楽と映画の世界で通訳と翻訳をしていたが収入は不安定。まったく自慢にならないが、チェルシー提携のクレジットカード審査で弾かれたりもした。
「ゾラが残るなら、ここで続けてみるか」と思っていると、クラブが契約延長を発表。子供に母国語の生活環境を望んでいたゾラ夫人が、プレミア優勝を期す夫のロンドン残留に合意してくれたのだった。
同シーズンのホーム最終戦、スタンドで「ミセス・ゾラよ、あなたしかいない!」と歌って感謝を示したチェルシー・ファンの中には、この日本人もいた。
リバプールを手玉に取る最後の名演。
そして2年後、「ミスター・ゾラ」に新契約がないまま訪れた最終戦でも、他人には真似の出来ない名人芸でリバプールの守備陣を手玉に取った。
コーナーフラッグ付近でボールを持つと、巧みなキープで1度ならず2度までもジェイミー・キャラガーのタックルを徒労に終わらせ、軽快なステップでブルーノ・シェイルとダニー・マーフィーも抜き去ってボックス内に侵入。
ゴールライン際で体を入れたパトリック・ベルゲルに止められたが、プレミアで最後の名演となった単独突破には、スタンドのリバプール陣営からも拍手が起こった。