大相撲PRESSBACK NUMBER
“沈黙の10秒間”に込めた思い……。
八角理事長と「国技大相撲」の誇り。
posted2020/03/24 20:00
text by
荒井太郎Taro Arai
photograph by
Kyodo News
44回目の優勝を決めても横綱白鵬に笑顔はなかった。
「これで終わったなという感じです」
直後の優勝インタビューでも口をついて出るのは安堵の言葉しかない。
「モチベーションをどこに持っていくのか。浮き沈みが激しかった」と綱を12年以上張っている第一人者ですら、これまでに味わったことがない緊張感を強いられた15日間であった。それは白鵬だけでなく力士全員が感じたことだったに違いない。
いつもなら十両結びの3番前に行われる千秋楽の協会挨拶だが今場所は全取組終了後、全幕内力士が東西の土俵下に整列した形で行われ、八角理事長(元横綱北勝海)は挨拶の冒頭、感極まったのか言葉に詰まり、しばしの沈黙の後「本日、千秋楽を迎えることができましたことはひとえにテレビ、ラジオ、インターネット等を通じて応援してくださった全国の皆様からのご支援、関係者によるご尽力の賜物でございます」とファンや関係者に感謝の意を示した。
あらゆる対策を講じた上での開催決定。
延期となったプロ野球の開幕日の目処がいまだに立たず、サッカーのJリーグ公式戦は中断したまま。選抜高校野球が中止となるなど、スポーツイベントがことごとく中止や延期を余儀なくされる中、大相撲春場所は無観客ながら開催を決定した。
ただし、力士、親方衆、行司や呼出し、床山ら約1000人いる協会員に1人でも新型コロナウィルス感染者が出たら場所はその時点で打ち切るという厳しい条件もつけた。
力士には毎日朝と夜、1日2回の検温を義務づけ、37度5分以上が2日続けば理由を問わず休場。さらに発熱が続けばPCR検査を受けさせることも決めた。外部接触を極力避けるため、力士の場所の行き帰りは公共交通機関を使わず自家用車やタクシーなどに限られ、費用は全額協会負担。
場所入りしたら一時外出は禁止のため、早い時間帯に取組がある若い衆で関取の付け人を務める者は部屋から弁当を持参して館内の指定の場所で取ることに。