大相撲PRESSBACK NUMBER
“沈黙の10秒間”に込めた思い……。
八角理事長と「国技大相撲」の誇り。
text by
荒井太郎Taro Arai
photograph byKyodo News
posted2020/03/24 20:00
令和2年の春場所千秋楽。ガランとしたエディオンアリーナ大阪で八角理事長の声が力強く響いた。
「改めて歓声のありがたさがわかった」
不要不急の外出は自粛が要請されているので夜も出掛けられない。
あるベテラン力士は「外出しないからやることがない。早く寝るので逆に体調管理がしっかりできる」と話すが、別のある力士は「挨拶回りが全然、できなかった」と年に1度の今年の大阪は誰にも会えずじまいで帰京することとなった。
報道陣にも会場へ入館の際は検温が実施され、通常は入れる支度部屋も今場所は立ち入り禁止とし、支度部屋入口手前に取材スペースとしてミックスゾーンが設けられ、力士と報道陣の間隔を2メートル離すなど、様々な取材規制が設けられた。
とにかく感染者を1人も出してはならず、ピリピリムードの中、春場所は開幕した。
無観客という誰も経験したことがない土俵で力士たちも戸惑いを隠せない。
いつもなら勝てば館内は大熱狂し、負ければ悲鳴がこだまする炎鵬は「いつもと違う雰囲気で闘争心、アドレナリンが出なかった。(声援を)当たり前のように感じていたけど、どれだけお客さんから力をいただいているのかを感じました」と話した。
大関貴景勝も初日を終えると「改めて歓声のありがたさがわかった。お客さんも大相撲を作ってくれている」と無観客だからこそ、満員御礼の中で相撲が取れる幸せを逆に実感した様子。
「逆に稽古場みたいに緊張しないで相撲が取れる」といった声も少なくなかったが「気合いも入れづらい」と、制限時間いっぱいとなって観客が盛り上がり、独特な緊張感の中で集中力を高めるという普段のリズムで相撲が取れない難しさもあったに違いない。
千代丸の発熱で騒然とした8日目。
それでも序盤を過ぎたあたりから各力士は静寂が支配する環境に慣れてきたようだ。
当初のピリピリムードも若干、和らいできたところで再び緊張感が走ったのは幕内の千代丸が発熱で8日目から休場したときだった。
約40度の高熱が2日続き、念のためPCR検査を受けることに。症状からして蜂窩織炎の可能性が極めて高かったが関係者は万が一の事態を想定せざるを得なくなった。
結局、検査結果も陰性と判明して事なきを得た。