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“沈黙の10秒間”に込めた思い……。
八角理事長と「国技大相撲」の誇り。 

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荒井太郎

荒井太郎Taro Arai

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photograph byKyodo News

posted2020/03/24 20:00

“沈黙の10秒間”に込めた思い……。八角理事長と「国技大相撲」の誇り。<Number Web> photograph by Kyodo News

令和2年の春場所千秋楽。ガランとしたエディオンアリーナ大阪で八角理事長の声が力強く響いた。

神事としての役割を果たすべきという考えも。

 日本国内だけでなく海外のメジャースポーツも軒並み休止に追い込まれる中で、日本の大相撲もこれに倣い「中止」を決断したとしても大きな批判は起きなかったであろう。

 初日の八角理事長による協会挨拶でも触れられたように、お相撲さんが踏む四股は元来、邪気を土中に押し込める力があると言われてきた。敢えてリスクを背負い、無観客ながらも本場所開催に踏み切ったのは、今こそ大相撲の神事としての役割を果たすべきだと考えたからなのかもしれない。

「大相撲の持つ力が日本はもちろん世界中の方々に勇気や感動を与え、世の中に平安を呼び戻すことができるよう、協会一同一丸となり15日間全力で取り組む」と八角理事長が相当な覚悟を持って決行した史上初の無観客場所は無事に15日間を終えた。

どんな国難にあろうと開催してきた大相撲。

 大相撲は大正12年に発生した関東大震災で東京が大打撃を受けると、土俵を名古屋に移して本場所を続行した。

 戦争が激化した昭和20年6月、この年の職業野球の公式戦が中止になっても本場所は周囲が焼け野原となる中、屋根の一部が破損した旧両国国技館で非公開による晴天7日間で開催された。

 先人たちは日本がどんな困難に見舞われようとも国技大相撲を守り通してきたのだ。

 千秋楽の協会挨拶でのあの“約10秒の沈黙”には、異例尽くしの場所を無事に乗り越えた安堵感、伝統を守り抜くことの並大抵ではない難しさ、大相撲の持つ底力など、様々な思いが詰まっていたのではないだろうか。

「今場所は過酷な状況の中、皆様のご声援を心で感じながら立派に土俵を務め上げてくれました全力士、そして全協会員を誇りに思います。我々はこれからも伝統文化を継承し、100年先も愛される国技大相撲を目指して参ります」

 横綱白鵬をはじめ、様々な力士が「いい経験になった」と口を揃える。新たな力を纏った大相撲は変わらないことでまた一歩、大きな前進を遂げた。

 今はただ、国技が持つ力が日本のみならず世界に平安を取り戻してくれると信じていたい。

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