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引退シャラポワの「美学」とは。
専属日本人トレーナーが見た素顔。 

text by

内田暁

内田暁Akatsuki Uchida

PROFILE

photograph byYutaka Nakamura

posted2020/03/05 19:00

引退シャラポワの「美学」とは。専属日本人トレーナーが見た素顔。<Number Web> photograph by Yutaka Nakamura

シャラポワを支えた中村豊コーチ。その生活ぶりには驚かされることが数多かったという。

あの禁止薬物の時に言われたこと。

 究極のプロフェッショナリズムを備え、周囲が投影する“マリア・シャラポワ像”を、常に体現し続けてきた彼女。そのシャラポワが2016年3月に、禁止薬物メルドニウムに陽性反応が出たことを、自ら会見を開いて表明した。

 様々な憶測が飛び交ったこの事態を、中村たちはどのように受け止めたのだろうか……。

「僕から言えることは、彼女を信じていたということです。医療目的で飲んでおり、パフォーマンス向上の意図はなかったこと。以前は合法だったが、2016年からルールが変更されたことを知らなかったこと。会見を開く前に、それらを自分の口で僕にも伝えてくれました。

 責任は全て自分にある、ちゃんとルールをチェックしなかった自分が悪い……と。自ら進んで会見を開くことも決めていました。だから僕も彼女の信頼に応えるし、離れることは全く考えていませんでした。

 あの時、彼女は29歳。そこで実際に引退も考えたかもしれない。でも彼女の人生は、常に自分で物事を決めて進めるスタンスだった。だからカムバックして全てやり尽くし、悔いなく引退したということですよね」

空気がピリッと変わるような存在感。

 シャラポワと過ごした日々の写真を見返した時、中村が思い出すのは、彼女の努力する姿であり、空気がピリッと変わるような存在感であり、通り過ぎる彼女の姿を誰もが振り返って見たいと思いつつ、それすら恐れさせるかのような緊張感だ。

 現在中村はIMGアカデミーで、18歳の新鋭アマンダ・アニシモバ、そして20歳のデニス・シャポバロフを主に指導している。シャラポワの引退とともに、テニス界のそして自身のキャリアの1ページも閉じたことを噛み締めつつ、そのかけがえのない経験の中で得たことを、次の世代に伝えることが自らの使命だと心に刻む。

【次ページ】 引退して彼女の凄さを改めて実感。

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マリア・シャラポワ
中村豊

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