マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
知られざる野球技術のまさに宝庫。
社会人野球を生き抜いた男の打撃論。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2020/03/06 11:30
2019年のドラフトで、東芝から西武に1位指名された宮川哲。社会人のトップレベルはプロでも上位に食い込む実力者たちだ。
ファールを打つ練習が必要?
「ファール」という存在。
たとえば、タイミングを間違えて打ち損じた時や、やっとバットに当てた時に生じる負の産物。実は、そんなネガティブな存在としてしか、認識していなかったように思う。
「ファールが打てれば、それによって、次に失投をもらえる場面もあるかもしれないし、その失投をホームランにできる可能性もある。ファールによって、“夢”が生まれたりするんですよ」
ファールは、バッティングの前向きな手段のひとつなのか。
「バッティングって、練習でも実戦でもそうですけど、フェアゾーンに打ち返さなきゃいけない……みたいな意識、ありませんか? でも、実際は、ファールによって助けられて、打ち直すチャンスが与えられる。そういう意味では、ファールを打つ練習……難しいコースをファールにして、苦手なコースをファールにして打ち直しをもらえば、相手の投手をジリッジリッと追い詰めていくことにもつながるし」
「カットじゃ、意味がありません」
絶妙なコースに投げているのに、ファール、ファールが続けば、投手にとっては、逆に次のボールが甘くなる可能性が高くなる。「絶妙なコース」など、そう何球も続くもんじゃない。
「いわゆるカットじゃ、意味がありません。フェアゾーンに打ち返すためのスイングでファールにしないと……そうでないと、次のボールを快打にする準備にならないでしょ。そこが技術になるんです」
ファールを打てる技術を身につけると、次に、自分の有利になるボールを投げさせる“伏線”も作れるという。
「社会人の一流どころは、たいていのピッチャーが打者の体の近くにコントロールする技術を持ってます。そこをなんとかできないと、やられてしまうんですけど、内角のきびしいボールって、外よりヒットにしにくい。だから、自分の場合は、そこをファールにしてました」