相撲春秋BACK NUMBER
引退してもなお男道は続く……。
境川親方と豪栄道の“やせ我慢”美学。
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byKyodo News
posted2020/01/31 17:00
引退記者会見に臨む豪栄道。隣には目をうるませた境川親方の姿があった。
「男のど根性を、誰よりも持っていた“漢”です」
何を信念として歩んできたのか? と問われると、
「“やせ我慢”っていうのがずっと心のなかにあって、人にそういうところを見せないようにやってきました」
と答えた。その言葉を受けた境川親方が口を開く。
「18歳から15年間、寝食を共にしながら、頑張っている姿を――ケガして苦しんでいる姿を見てきましたから(引退は)ホッとしたというか。本人も言っていた“やせ我慢”。やせ我慢の美学を大事にしていた男だな、と思います。男のど根性を、誰よりも持っていた“漢”です」
この言葉に、ふと相撲解説者の舞の海秀平氏の「境川親方評」を思い出すのだ。
「常に“やせ我慢”(笑)」
大学の後輩であり、境川親方の計らいで部屋の「師範代」として籍を置く舞の海氏は、奇しくもこう評していたことがある。
「親方の性格はカラッとしていて、常に“やせ我慢”(笑)。実は、相撲が始まると情緒不安定になるんです。『相撲を取るのは力士なのに、親方がそんなに一喜一憂してどうするんですか』と私が言うほどです。弟子たちの成績が悪いとすごく落ち込むけれど、それは周りには出さない。 厳しさと愛情の両方が強い親方なんです。境川部屋の強さの秘密は、そこにあると思うんですよ」
師弟揃っての「やせ我慢の美学」。
もちろん、師匠の背中を見続けた15年間、充分に“境川イズム”が、その心に体に染み込んでいるのが豪栄道だ。
「親の心子知らず」どころか、「親心を熟知し、子の心を熟知する」師匠と弟子。その強固な絆は、角界のなかでも語り草となるほどだ。