相撲春秋BACK NUMBER
引退してもなお男道は続く……。
境川親方と豪栄道の“やせ我慢”美学。
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byKyodo News
posted2020/01/31 17:00
引退記者会見に臨む豪栄道。隣には目をうるませた境川親方の姿があった。
「男としていろいろ学んでいきたいです」
そう、あれは、まだ豪栄道が小結だった、2008、9年頃の九州場所でのことだったか。
千秋楽の結びから三番、「これより三役」では、勝利した力士が矢や弦を行司から押し頂く慣習がある。
初めて矢を手にした豪栄道が、閑散とした支度部屋の入り口で帰り支度をしていた。付け人と談笑する豪栄道の言葉が漏れ聞こえてきた。
「これ(矢)、オヤジ(師匠のこと)はもらったことあるのかな? オヤジにあげたら喜ぶかな?」
まさに、微笑ましいほどの“相思相愛”の師弟愛が垣間見られたものだった。
「自分は横綱に上がれなかったので、横綱を育ててみたい。まずは師匠の元で修行し、その男っぷり――男としていろいろ学んでいきたいです」
そう、潔く土俵を下りた豪栄道は言う。夢は次世代に受け継がれ、師弟ふたりの相撲道――男道は、これからも続いてゆく。