“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
静岡学園・田邉秀斗の機転と洞察力。
エース松村優太を生かした2年生。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/01/17 11:40
右サイドバックとしてエース松村をサポートした田邉。後半は中央からビルドアップに加わり、反撃の流れを作った。
SB田邉が中央へ絞った理由。
もう1つの狙いがあった。それは自身のタスクである「松村の活用」だった。
「後半は松村さんにできるだけボールを持たせたかったので、中に絞ることでサイドをあけて、松村さんにどんどん勝負して欲しいなと思いました。そこが逆転のカギになるかなと。松村さんのところにサイドバックである僕を経由してボールを入れるとどうしても遅くなるし、相手の視野の中でボールが動くことになるので、CBから直接ボールが出せるようにボランチに近いインサイドでプレーすることを選択しました」
この狙いがハマり、松村が右サイドでドリブルを仕掛ける回数が増えた。右から複数枚のマークを剥がしてドリブルすることで、左サイド、中央の選手がフリーになる。ましてや、静学はダブルボランチが高い位置を取ることで、5人もの選手がアタッキングサードに入り込んでいるために、セカンドボールの攻防でも優位に立てる。流れは必然的に静学に傾いていった。
61分に左サイドの展開からFW加納大によって待望の同点弾が生まれた。このゴールの起点は、自陣でカバーリングからセカンドボールを拾い、ボランチの井堀に繋いだ田邉の縦パスだった。さらに得点に繋がる一連のシーンを見ていた彼は再び発見する。
「相手の中盤の3枚(武田、古宿、松木)の足が止まってきていて、トップ下の小山さんの動きについてこれず、スライドが遅れている状態だった。僕が高い位置を取りながらもっと中に絞れば、小山さんと中央で2対2、2対1の局面を作り出せると思った」
同点に追いついた勢いも重なって、攻撃時は2-2-3-3のような前のめりな布陣を取った。これも田邉と西谷の両サイドバックが2CBの前で的確なポジションを取ったからこそ。ここから田邉の輝きはさらに増した。
王者のカウンターを阻止、流れを渡さない。
65分、青森山田の右CKが逆サイドに流れ、松村がクリアした瞬間、田邉がスプリントのギアを上げる。クリアボールを草柳が武田と競り合い、浅倉がフォローして縦のスペースに出すと、田邉がセンターライン付近からドリブルを開始。そのままペナルティーエリアまで運ぶが、フィニッシュの際にトラップが乱れたことで、青森山田のFW田中翔太とCB箱崎拓の2人がかりで止められてしまった。
だが、クリアボールのこぼれ球を青森山田の松木がマイボールにしようとした瞬間、背後からトップスピードに乗った田邉が右足で絡め取った。すかざす前向きの状態だった松村につなぐと、エースは得意のドリブル開始。田邉は松村と入れ替わるように右サイドバックのカバーリングポジションに戻った。
さらに73分、中央をこじ開けにかかった浅倉と井堀の仕掛けが止められると、最後は青森山田の古宿が持ち出し、武田の前のスペースに縦パスを送り込まれた。その瞬間、田邉が右から平行に猛ダッシュ。武田が得意の左足で裏へ縦パスを出した瞬間、田邉は左足を伸ばしてブロック。ボールは大きくコースを変え、右タッチラインを割った。
つまり、相手を仕留めにかかった青森山田得意のカウンターを何度も未然に防いだのだった。
「10番がボールを受けるときに余裕がなくなっていたので、自分のスピードを生かして横からコースを切れば、視野には入らずにボールを奪えると思った」
2-2の緊迫した場面で、相手のストロングを消すプレー。静学の流れを切らせないビッグプレーだった。