セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
実録・無法ウルトラスに潜入(2)
「オレたちのイ中間」と白い煙。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byTakashi Yuge
posted2020/01/06 11:15
中村俊輔を讃えるゲートフラッグ。それを掲げるクルバは、やはり違法行為の温床だった。
穏やかな活気が変わる瞬間。
夜の9時半を過ぎた頃だろうか。
「おー、おまえら揃ってるなー」
リーダーのカルミネが本部に姿を見せた。場に明かりがともり、穏やかな活気が生まれた。
レッジーナをネタに仲間内のおしゃべりにも熱が入る。
モザルトという主力MFにドーピング検査で陽性反応が出たが、原因は蚊に刺された3歳の娘に塗ってやったかゆみ止め軟膏成分だったとか、ちょうどゴールパフォーマンスとしてユニフォームを脱ぐ行為への警告処分が始まった頃で、リーグ機構は選手の感情表現を尊重しろだとか、大抵はたわいのない話題だった。
ただし、次の遠征の打ち合わせだとか、選手向けチャントを考えたりするときは皆、真面目な面持ちになった。
シェフチェンコのチャントが俊輔に。
サッカーの世界では選手の出入りが激しい。だから特定の選手のために個人チャントが作られるのは、ウルトラスが“これは”と見込んだ重要プレーヤーだけだ。
2002年の夏にセリエAに昇格したレッジーナにとって、背番号10を与えて獲得した中村俊輔はチーム構想の核だった。開幕から間もない時期には中村のチャントが、イタリア半島のつま先にあるスタジアムで歌われていた。
“ブラジル人じゃないのにすげえゴールを決めやがる/あいつはレッジョじゃすっかりアイドルさ/ナーカームラー”
「中村のチャント? ああアレね、俺たちが考えたんだ。いい感じだろ?」
カルミネは鼻高々に言ったが、元ネタがミランのエースFWシェフチェンコのチャントであることは、サン・シーロに行ったことのある人間なら誰でも知っていた。でも、この町ではそんなことはどうでもよかった。何ならミランのウルトラスとは友好関係にあるから問題はなかった。
レッジーナのゴール裏では、2×3mほどもある中村俊輔の似顔絵幕が掲げられていた。
お世辞にも似ているとは言い難い出来だったが、味のあるイラストでスタンドによく映えた。何より縦書きされた日本語フレーズにインパクトがあった。
オ
レ
た
ち
の
イ
中
間
初めて見たときには思わず吹き出した。当時、市役所でボランティアをしていた日本人スタッフの1人に「ボーイズ」とは別のグループが頼み込んだところ、メモに横書きされた“仲間”を“イ中間”と縦書きし損ねたらしい。