セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
実録・無法ウルトラスに潜入(2)
「オレたちのイ中間」と白い煙。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byTakashi Yuge
posted2020/01/06 11:15
中村俊輔を讃えるゲートフラッグ。それを掲げるクルバは、やはり違法行為の温床だった。
「やるか?」をどう断るか。
だが、さし当たって僕が直面すべきは、いざ目の前の人間から勧められたときにどう断るか、ということだった。どうすれば自分の立場を守りながら相手を興奮させず、場を切り抜けるか。僕は手にあったビールをやたら呷った。
「おまえもやるか?」
僕は大麻を勧められたことを告白する。最初は、アルコールで十分いい気分だから、とやんわり断り、その後は「そんなもん吸ったら天国のばあちゃんが悲しむ」と家族愛に訴えた。相手から目をそらしたら負けだと思った。
絡んできた若いメンバーもいたが、ジャンフランコが穏やかに制してくれた。彼は「そうか仕方ないな。じゃ、頼みがあるんだが」と言ってきた。
「名前を刺青で彫りたいからいい漢字を教えてくれないか」
それなら、と快く引き受けた。
再び鉄格子を開けて、地上に出たときには深夜になっていた。ふーっと息をついて、月明かりの下で家路につく。
この地方は、イタリアはおろか欧州でも随一のマフィア組織のお膝元として有名だ。本部の目の前には、商用バンが黒焦げのまま放置されてあった。
愛するはずのクラブに罰金1510万円。
「おい、これ見てみろよ!」
僕がビールといっしょに持ってきたスポーツ雑誌をめくっていたカルミネが突然、大声を上げた。毎年発表されるクラブへの罰金ランキングについての記事を指していた。
中村俊輔はレッジーナでの3年目を迎えていた。僕も「ボーイズ」に出入りするようになってから同じ年月が経っている。
ウルトラスや観客による発煙筒の使用や差別的表現を含む野次や横断幕、乱闘騒ぎなどの責任は、クラブが罰金という形で負う。
2004-05シーズンの終盤にリーグ機構から発表された罰金ランキングで、レッジーナは首都ローマの2クラブに僅差の3位だった。愛するはずのクラブに、10万7750ユーロ(当時レートで約1510万円)もの罰金を払わせて心は痛まないのか。