セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
実録・無法ウルトラスに潜入(2)
「オレたちのイ中間」と白い煙。
posted2020/01/06 11:15
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Takashi Yuge
そこで新春特別企画として、潜入取材した弓削高志さんが体験した生々しい実態を、全5回にわたってお送りする。第2回はセリエA・レッジーナに所属した中村俊輔への愛情、そしてクルバの実態について――。
合言葉はなくても、見張りはいた。
ウルトラス「ボーイズ」の本部は、シチリア島との連絡船が発着する港に近い広場から少し入った路地にあった。
指定された番地には半地下へ潜る階段があり、レッジーナのクラブカラー、深紅色に塗られた入り口の鉄格子が部外者の侵入を頑なに拒んでいる。窓の類は見当たらず、外から中の様子はまったく窺えない。
クルバ(ゴール裏)で見知った見張り役2人に声をかけて、インターフォンで錠を開けてもらう。
緊張しなかった、と言ったらウソになる。
ビィッという安っぽい電子音でロックの外れた鉄の扉を押して中に入った。虎穴に入らずんば、という諺が頭をよぎった。
一歩入ると、中にいた7、8人の男たちが一斉にじろりと僕の方を見た。手土産のビールを渡すと、ようやく彼らの顔がほころんだ。
意外と整理された本部の中には……。
乗用車が4、5台入りそうな地下ガレージといった按配の本部は、意外にも整理整頓されていて、入口内側の壁には応援で使う大太鼓や3mほどの旗が束ねられて置かれている。四方を囲む白塗りの壁にはこれまでの活動を物語るグループ自慢の写真パネルがずらりと並び、天井や梁にはアズキ色の塗料で描かれたグループのシンボルがあった。掲示板に貼られた大判の電車路線図付きイタリア国土地図の小さな書き込み。
“いつでもどこでもチームとともに。栄光あれレッジーナ!”
室内カウンターのそばには、活動の資金源となるグループのグッズ見本棚がある。陳列されたマフラーや毛糸キャップにはミック・ジャガーが白抜きデザインされていた。理由を尋ねたら
「そりゃおまえ、(権威への)反抗の象徴だからに決まってるじゃねーか」
ひんやりした室内は、つけっ放しになっているTVの音声がよく響くほどひっそりとしていた。ワイワイがやがや和気藹々、なんて期待はしていなかったが、ウルトラスの巣窟にいるはずなのに、僕を含めた10人弱の男たちは煙草を吸い、ビールを流し込み、淡々と時を過ごした。