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佐藤琢磨が次世代に
伝えたい喜びと悔しさ。 

text by

稲川正和

稲川正和Masakazu Inagawa

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photograph bySPORTS BIZ

posted2020/01/15 11:30

佐藤琢磨が次世代に伝えたい喜びと悔しさ。<Number Web> photograph by SPORTS BIZ

インディで佐藤があげた雄叫び。

 その女の子が感じた喜びと、佐藤が今も追い求めているものの原点は同じだ。3年前の5月、伝統のインディ500マイルで、日本人として初めてチェッカーフラッグを受けたとき、全身から出た雄叫びは、まるでこの世に生を享けた赤ん坊がお母さんのお腹の中から出てきた瞬間、あらん限りの力を振り絞って泣くようだったと言う。

「チェッカーを受けて、無線のスイッチを入れて、チームクルーに『Thank you!』って伝えようとしたんですが、まったく言葉が出てこない。ただ、叫ぶだけで。喜びの感情が爆発すると、人間ってああなるんですね。ようやく感謝の言葉を伝えられたのは、1コーナーを過ぎてからでした」

全国の子どもにモータースポーツを。

「グリコ×With you Japan TAKUMA KIDS KART CHALLENGE」は2017年から、被災地の子どもだけでなく、全国の子どもたちも参加することができるようになった。2019年は北海道から沖縄まで全国24カ所のサーキットで、1373人の小学生がレンタルカートで延べ5366回のタイムアタックを行い、各サーキットの上位者、計100人が11月に鈴鹿サーキットに集まり、2日間にわたって、佐藤から直接、カートの運転法、サーキットの走り方を教わった。2日目には、各自の能力に応じてクラス分けされ、レースが行われ、成績上位10人が12月の「アカデミー」へと進んだ。

「当初は復興地の子どもたちを対象にしたり、被災地と関東の子どもたちの交流をモータースポーツを通じて促していたりしていましたが、しだいに地域に関係なく全国の小学生にモータースポーツの楽しさを味わってほしいと思うようになって、現在の形にしたんです」

 そこには、佐藤ならではの思いも込められている。10歳のときに、鈴鹿の日本グランプリでアイルトン・セナの走りを見て、将来はF1ドライバーになりたいと夢を抱きながら、19歳までレーシングカートに乗ることができなかった自身の人生を顧み、カートは未経験でも才能のある子を発掘し、プロへのきっかけづくりをしたいと思ったのだ。だからトップ10人が集う「アカデミー」では、「ここからは『遊び』ではなく、『コンペティション』の世界だ」と厳しさを伝えた。

【次ページ】 ドライバーに必要な感謝と求心力。

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佐藤琢磨

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