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長谷部誠、究極の非日常を楽しむ日々。
「命賭けでやるような場に立たないと」
text by
本田千尋Chihiro Honda
photograph byGetty Images
posted2019/12/22 11:50
チームメイトのコスティッチとゴールを喜ぶ長谷部誠。「ヒリヒリするような喜怒哀楽」を日々堪能しているという。
“究極の非日常”を長谷部は楽しんでいる。
この例えは大袈裟かもしれないが、300試合もピッチに立ち続ける長谷部が「命を賭けてやるような場」と言うのなら、そこは本物の戦争の場に限りなく近いのだろう。
飛び交う怒号と罵声。ボールを中心とする敵と味方の絶え間ない運動の中で、感覚は研ぎ澄まされ、集中は極限まで高まる――。
気を抜けばあっという間に自陣深くまでボールを運ばれ、決して気を抜かなくとも、時にこちらの想像を上回る動きを敵は見せ、ゴールネットを揺らされてしまう。
残された時間が少なくなる一方で、言わば“究極の非日常”を、長谷部は楽しんでいるようである。
「サッカー選手をやっていると良いことばかりじゃないし、もちろん大変なこともあります。色々なことがあるんですけど、でもやっぱり、こんなにスリルがあるような、感情を出せるような場面というのは、サッカーをやめたらなかなか出てこないかなと思う。それを今、楽しんでいます」
「スパッとやめる気がします」
ケルン戦で長谷部は、CBのエヴァン・ヌディカが投入された62分から、1列上がってボランチのポジションに入ったが、それまでは最後尾を司るリベロとしてプレー。ピッチ上の至る所で、敵のセンターFWジョン・コルドバと「1対1の戦い」を繰り広げた。
「サッカー選手として」晩秋の時を過ごす日本人DFは、「命を賭けてやるような場」で、26歳の褐色のアタッカーとのマッチアップを楽しめただろうか。
「ブンデスリーガは1対1の戦いのリーグ。フィフティー・フィフティーで当たったら勝ち目のない相手に対しても、どう勝ち目を見出していくか……そういうことを考えながらやっています。
そういう1対1の戦いでフィジカル的に負けるようになったら、ブンデスでは厳しいかな、と思いますね。そこでなかなか勝てなくなってきたら、自分の中で『潮時』かな、と思うんじゃないですかね」
「潮時」――。長谷部の中には“引き際の美学”があるようだ。
「ドイツは若い選手がどんどん出てくるし、僕はいつも1年契約で、1シーズンのパフォーマンスがちょっとでもダメだったら、おそらく切られる世界。
長くやることがいいことかというと、そういうわけではなくて。とにかく自分の中で出来ないなと思ったら、スパッとやめる気がします。
それはプロのサッカー選手としては、そうありたいなと思いますね」