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長谷部誠、究極の非日常を楽しむ日々。
「命賭けでやるような場に立たないと」
text by
本田千尋Chihiro Honda
photograph byGetty Images
posted2019/12/22 11:50
チームメイトのコスティッチとゴールを喜ぶ長谷部誠。「ヒリヒリするような喜怒哀楽」を日々堪能しているという。
“根性”だけでなく“知性”も武器に。
そんなメンタルの強さが問われる過酷な状況に置かれても、長谷部は「苦しい時に」「歯を食いしばって状況を打開することが出来てきた」と言い切る。
だからこそ、「波の大きいドイツ、ブンデスリーガでのサッカー人生」で、300試合出場を達成することができたのだ、と。もちろん「人生」は「苦しい時期」ばかりではない。“根性”を見せた日本人の青年は、ヴォルフスブルク時代の'08/'09シーズンにはリーグ優勝を経験し、フランクフルトでは、'17/'18シーズンにカップ戦のDFBポカールを制覇した。
そして12年の月日が流れ、瑞々しかった23歳の青年は、“根性”だけでなく“知性”も武器にし、ポジションを変えて、風格を漂わせる35歳のリベロになっていた。
ピッチの上に命のやり取りに近いものがある。
酸いも甘いも知るベテランは、来年の1月18日に迎える誕生日で36歳になる。どうやらスパイクを脱ぐ時も、少しずつ近づいているようだ。
長く日本代表で共に戦った本田圭佑と同じように、長谷部もまた、冒頭で触れたように「引退」という言葉を口にした。
キャリアの晩年に“終焉”を自覚しながら、「何のためにサッカーを続けるのか」――。
その理由は、ピッチの上に命のやり取りに近いものがあるからだという。
「今みたいな、なかなか勝てない時の苦しさや、勝った時の喜びは、こういう命を賭けてやるような場に立たないと感じることができないものだと思う。
今は本当に、ヒリヒリするような喜怒哀楽を自分の人生の中で楽しんでいますね。サッカーをやめたら、こういう感覚はなかなか味わえないかな、と思いながらやっています」
長谷部は、ブンデスリーガのピッチ上の世界を「命を賭けてやるような場」と表現する。
主審がキックオフの笛を鳴らした後で、選手たちが1つのボールを争って実際に命を奪い合う……ようなことは当然ない。だが、もし審判がいない“自然状態”で始まってしまったら選手たちは本当に「命を賭けて」ボールを奪い合ってしまうのではないか……そんな想像をさせできてしまうほどの闘志を感じるのも、また本当のことなのだ。