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ベルマーレ、苦難の年の最後に笑う。
J1残留はやっぱり湘南スタイルで。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byGetty Images
posted2019/12/16 12:30
湘南は史上最も苦しいシーズンに、クラブ初の2年連続J1残留を成し遂げた。この1年は彼らの歴史に厚みを与えることだろう。
劣勢の中で目覚めた湘南スタイル。
試合の構図を動かすきっかけは、浮嶋監督の選手交代だった。後半開始からブラジル人FWクリスランを1トップに置くことで、最前線に起点が生まれていく。背番号20が相手DFの注意をひきつけ、ゴール前に味方選手が走り込むスペースを作り出すのだ。
ピッチ上の色彩を変えたのは、選手交代という戦略だけが理由ではない。ダブルボランチの一角を担う齊藤藤未月は、「先に失点をして追われるよりも、追う立場のほうがうちのチームとしてはやりやすい。守りに入るよりは攻めていったほうがいいプレーが出るチームなので、慌てることはなかったです」と振り返る。
右ウイングバックの岡本拓也も、「先制をされて点を取るしかなかったので、とにかく積極的にいくことを意識していました」と話す。点を取らなければJ1に残留できない状況に立たされたことで、選手たちはリスクを恐れずにアタックを仕掛ける“湘南スタイル”の本質に目覚めていったのである。
最終盤の失点もこの日は防ぎきった。
64分、左ウイングバックの鈴木冬一のタテパスを、後半から左シャドーへポジションを変えた山崎凌吾がゴール前へのラストパスへつなげる。クリスランがスルーをすると、背後から密集に飛び込んできたのは松田天馬だ。
「決めるだけでした。落ち着いていました」という狙いどおりの冷静な一撃が、GKの右をスルリと破っていった。
1-1の同点としたあとは、追加点の好機を迎えていない。だからといって、ブロックを敷いたわけではなかった。
「しっかりラインを上げて、いくところはいって、閉めるところは閉める」という浮嶋監督の意図を、選手たちは球際で戦う、足を止めない、チャレンジ&カバーを徹底する、といったチームが大切にしてきた要素で固めていく。FC東京と松本山雅に喫した最終盤での失点も、終了のホイッスルが鳴るまで集中力を保つことにつながっていた。