“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
布先生が教え子と交わした熱い抱擁。
群馬J2昇格の裏に市船の師弟関係。
posted2019/12/13 15:00
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
Takahito Ando
2019年12月8日。福島県のとうほう・みんなのスタジアム。
J3第34節、福島ユナイテッドFCの敵地に乗り込んだザスパクサツ群馬は2-1で勝利し、3年ぶりのJ2昇格を手にした。
サポーターからの歓喜の紙テープが降り注いだピッチサイドで、胴上げされたのが就任2年目の布啓一郎監督と今季レノファ山口から加入した最年長のゲームキャプテン、DF渡辺広大だった。
「僕だけですよね、監督がしゃべっているときにピシッと直立不動をしているの。最後もみんな『布コール』と呼び捨てにしていましたけど、僕はひと言も言っていません。1回も言っていません。
布先生は口数が多くはありませんが、選手を本当によく見ています。選手の怪我やトラブルを含めて、凄く見ている。なので、毎日ピリピリした雰囲気の中で練習ができたことは、若手にとってもよかった事だと思います」
試合後にこう話したように、2人は強固な「師弟関係」で結ばれている。
「君のような選手が必要だ」
今から18年前の2001年。当時、中学3年生だった渡辺は千葉県のウイングスS.S.習志野でプレーしていた。そんな渡辺に熱い視線を送っていたのは、市立船橋高校の監督を務めていた布だった。
「当時から身体も大きかったですし、ウイングスでボランチなどをやっていて、彼の真面目なパーソナリティーが非常に魅力的だった。昔から上手い選手ではなかったですが、中学生の時から声を出して真面目に戦っている姿を見ていたし、リーダーシップもある。上手い、下手ではなく、絶対に市立船橋でやれると思っていた」
すでに選手権、インターハイを制していた布だったが、新たな市立船橋を築くべく、その白羽の矢を渡辺に立てたのだった。だが、渡辺は地元・強豪校である習志野高校に進学するつもりだったという。
「完全に僕の心は習志野でした。ウイングスの仲間もみんな行くと言っていて、僕もそのつもりでした。でも、布先生が選考会に呼んでくれたので、『1回くらい行ってみるか』と思って参加したんです。その後、個別で面談があり、『ウチに来てほしい。君のような選手が必要だ』と熱意のある話をいただいた。そこで心が大きく揺れ動いたんです。布先生は有名でしたから当然知っていましたし、その偉大な方が真正面から僕と向き合ってくれていることがわかった。布先生の下でサッカーがしたいと思ったんです」
熱烈なラブコールによって、渡辺の心は突き動かされた。