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「山の神」3人の5区を徹底検証。
4代目の条件となるタイムとは? 

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涌井健策(Number編集部)

涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2019/12/13 20:30

「山の神」3人の5区を徹底検証。4代目の条件となるタイムとは?<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

発売中のNumber992号の巻頭ではスペシャル座談会「山の神が語り合う山上り、名ランナー、4代目」を掲載。

神野の最初の5kmタイムが凄まじい。

 さらに詳細にタイムを見ていこう。

 箱根駅伝では中継する日本テレビが中継所以外に、独自にタイムを計測するポイントを設けている。そのポイントを通過するタイムは大会の公式のものではないが、ファンにはすっかりおなじみとなっているだろう。

 5区では5カ所にポイントが設けられているが、その通過タイムが面白いのだ。

 まず、3人が最もいいタイムで走った年を比較してみよう。左から順に今井が4年時の2007年、柏原も4年時の2012年、神野が3年時の2015年のタイムだ(神野が走った年は函嶺洞門バイパスが完成して少しだけ迂回したために厳密には同一コースとは言えないが、ここでは単純に比較する)。記録は日本テレビHPを参照している。

【箱根湯本】(5.0 km地点) 15:19  15:06  14:47
【大平台】(9.4 km地点※)  30:04  29:34  29:30
【小涌園前】(14.2 km地点) 47:08  46:35  46:16
【芦之湯】(18.2 km地点※)  1:01:58 1:01:15 1:00:55
【元箱根】(21.2 km地点)  1:11:13 1:10:02 1:09:31
【フィニッシュ】(23.4km)  1:18:05 1:16:39 1:16:15
※大平台と芦之湯は年によって距離表記が違います。

 2006年から2017年まで採用された「23.4km」時代の5区で、歴代最高の記録を持つ神野が通過ポイントのタイムでも、先輩2人を上回っていたことがわかる。

 特筆すべきは、後半のような激しい上りではないものの、はっきりと上り基調の【箱根湯本】までの最初の5kmで、15分を大幅に切っていることだろう。序盤からこれだけ突っ込んでも、最後まで走り切る自信がなければこの走りはできない。

 座談会で神野自身が「ぼくは山の神になりたかった」とこのレース前の気持ちを振り返り、「そのためには柏原さんの記録を抜けば3代目になれると思っていた」と柏原のタイムを詳細に分析していたことを明かしているが、それに加えて当日のコンディションや体調の良さなどすべての条件が揃って出た空前絶後の記録だろう。

5区史上最速のラストスパート。

【箱根湯本】から【大平台】までの区間では、3人の中でも柏原が最速の14分28秒で走っており、本格的な山上りになってからギアを上げていったことがタイムからも伝わってくる。また、【元箱根】から【フィニッシュ】でも6分37秒と神野を7秒上回っており、5区史上最速のラストスパートだった可能性がある。

 そして、勾配が急で神様と呼ばれた男たちをもってしても「最もキツい」と語る【小涌園前】から【芦之湯】の4.2kmのタイムを比較すると、今井が14分50秒、柏原が14分40秒、神野が14分39秒とほとんど差がないことがわかる。

 気象条件が同じだった各々の年の区間2位の選手のタイムと比較してみると、07年の明大・尾籠浩考が15分45秒、12年の明大・大江啓貴が15分27秒、15年の日大・キトニーが15分23秒となっており、3人がこの4.2kmだけで40秒以上の差をつけていることがわかる。

 キツい区間で粘れたからこその「山の神」だったのだ。

【次ページ】 4代目・山の神に就任する条件。

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