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J3最下位から一気に優勝の北九州。
J2昇格に至る密かなる革命の記録。
text by
吉崎エイジーニョ“Eijinho”Yoshizaki
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/12/10 11:50
J3最小失点の堅固な守備陣をベースに、目先の勝利を追わず中長期的な戦略で優勝に至ったギラヴァンツ北九州。
今季は「戦術の決め事がしっかり伝わっている」。
小林に12月8日のJ3最終節後に「選手たちのピッチ上での判断」の話を聞いた。淀みなく、こう答えた。
「やっぱり、決め事なんですよ。戦術の決め事がしっかり伝わっているからこそ、選手たちはその枠のなかで判断を出来ている。J2に上がるとまた壁にぶつかるでしょうから、いま一度こちらから指針を与え直していくことを考えています」
フロントの打ち立てた昇格3年計画(3年以内に昇格)も奏功し、終盤までチャレンジャー精神を保てた点も躍進の要因の1つだったと感じる。
取材者側は昨年のトラウマがあるのものだから、1敗だけでも「また暗黒時代が来るのでは……」とそわそわした。しかし小林は敗戦時にどんなにベンチで怒っていても、会見時には笑顔を見せた。こちらはナーバスな感情の矛先を収めることになる。それも「まだまだチームは成長過程ってことです」などと言い切る。
「もう仕方がないですから(中略)ここ(記者会見の場)で真摯にできるだけ話をして、この想いをいろんな方に伝えてもらえれば、サッカーのファンが少し増えるかなという所もちょっとありまして」
ただし、「昇格請負人」とて、シーズンを達観しきっていたわけではない。「プレッシャーがきつかった。スポーツダイレクターも兼任しているから、クラブ事務所での事務作業もあってそこに行くんですが、シーズン終盤には当然“来季の話”をしている。それもまた苦しくて! オフの月曜日にスタッフと食事できる機会が一番の安らぎでした」
6位という目標以上の成績を収めたシーズンには、不振時とは違った苦悩があった。若いコーチ陣によるデータ分析により「積極的に攻めよう」という勢いに乗せられる時もあったという。
「やれるのに、やらない時」は強面に。
もちろん2014年に誕生したJ3リーグ、「傾向がまだまだ定まらない」という面はある。実績ある指導者が鍛え、整えれば成績が大きく向上する。今季3位に入った藤枝MYFCもまた昨年は「ブービー」だった。石崎信弘監督の指導の下、劇的にチームが替わった。
そういったなかでも、昇格請負人の今季の成績にはもっともっと注目をされていい。59歳、'00年から始まったプロ監督キャリアのなかで攻撃的に戦う(前からプレスをかける)という新しいチャレンジを行い、これを想像を上回る結果で結実させた。「ボールを持つ時間を長くすることで、失点を減らせる」という考えのもと、リーグ最少失点までも達成した。
やりたいことを定め、それに対する見通しも立てる。指揮官たるもの、そこに加え重要なのは、選手への伝え方だ。
小林は、オフィシャルサイトでのインタビューでこんな話をしていた。
「私が強い口調で言う時はひとつ。『やれるのに、やらない時です』」
確かに柔和な表情の印象のほうがはるかに強い。練習場ではにこやかにファンサービスに応じる。関西地方から試合出場機会の減った選手のファンが来たと聞くや、「彼はフリーランのできる選手。本当にチーム全体としては貴重な存在ですよ」と説明してみせるシーンも目にした。
昇格請負人は、必殺仕事人であり、“いいおじさん”。来季はJ2のステージで、どういった戦いを見せるだろうか。