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当初はコーチ、QBが拒絶反応も……。
日大アメフト部と新監督の1年半。
text by
杉山孝Takashi Sugiyama
photograph byKiichi Matsumoto
posted2019/12/06 20:30
タックル騒動を経てTOP8復帰を果たした日大アメフト部。橋詰監督のもとでの1年半は、あまりに濃いものだった。
かつての反逆児がピンチを救う。
だが、選手たちに戸惑う様子はなかった。強さを見せつけて、勝利する。オフェンスチームが声を張り上げる。
「どっちのオフェンスの方が多く点を取れるかだぞ!」
かつての“反逆児”QB林がロングパスを通し、自ら走ってビッグゲインし、何度もピンチを救う。ボールを託したランニングバックの独走タッチダウンには、跳び上がって何度も歓喜の雄たけびを上げた。シーズン最後に訪れた、ひりひりするような“2ミニッツ”。選手たちは全身で楽しみ、そして勝利した。
試合後、「まだ頭の中が混乱しています」という村田コーチが、チームの変化の実感を語る。
「でも、僕らと違って、選手たちは全然焦っていなかったんですよ」
村田コーチが新しいフットボールに納得できるようになったのは、正式にスタッフに就任してから1カ月後の今年2月頃だったという。「受け入れられるようになった時期は、人それぞれだと思います。でも、さすがに今は、全員受け入れていると思いますけどね」と言って、さらに目を細める。
この接戦での勝利が、その何よりの証明だろう。それはおそらく橋詰監督の、伝統という難敵相手の勝利でもあったはずだ。
「きれいごとかもしれませんが」
橋詰監督が留学したアメリカでは、指導者が高校から大学、さらにプロへとステップアップしていく。日本でも大学生は社会人リーグへと進むが、橋詰監督は「学生がいいんです。入ってきた時はヘタクソだったのが、立派になって卒業していくのがね」と大学フットボールにこだわる。
フットボールには技術や理論も必要だが、「きれいごとと言われるかもしれませんが、絶対に人間性は欠かせないと思います」。そう話しながら見つめるグラウンドには、かつての日大にはなかった笑顔がある。
新体制になってから、約1年半。橋詰監督はチームの完成度を「半分」と評する。新生フェニックスの本当のゴールは、まだずっと先にある。