「なんでこのやり方をするんですか」

　昨年は副将を務めており、現在は「5年生」としてオフェンスラインを指導する村田航平コーチは「ウォームアップや試合前の掛け声は残っていますが、それくらいですかね。これといって残っているものがあるとは、正直、感じていないですね」と語る。さらに、柔和な表情を少しゆがめて、1年前の混乱を振り返る。

「『何でこのやり方をするんですか』から始まって、『その意味が分からない』とか、監督には本当に失礼なことを言って……。数名で足の運び方についてだけで3時間くらい、監督と意見を言い合ったりしました。1歩目の角度をどうするかだったり、2歩目で当たる時の姿勢だったり、本当に細かい点でもめたというか、話し合いましたね」

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　足の踏み出し方という、まさに“第一歩”から覆された。甲子園ボウルでも主力として活躍した村田コーチは、そう感じていた。

　甲子園ボウルで1年生ながらMVPに選ばれたクォーターバック（QB）の林大希も、日本一になった努力を否定されているかのように感じた。当時のチームを振り返り、「個々の力はたいしたことなかったんですけど、チーム力はすごかったし、やっていて楽しかったですね。負けるという感覚がありませんでした」。

エースQBが変われたきっかけ。

　甘美な思い出を、誰にも消させるわけにはいかなかった。

　自分を日大に誘ってくれたコーチが去ったことも、林の「こじらせ」につながった。ようやく変われたのは、新体制になってから数カ月、秋に入った頃だった。

「いろいろ考えたら、この経験をできているのは、自分たちしかいないと思えるようになりました。すごく良い経験をさせてもらっていると思えるようになってからは、適応できるようになりましたね。社会に出てもいろいろ変化することはいっぱいある。それに対応する練習です」

　根気で勝った橋詰監督は、「だいぶ拗ねていましたね」と林の反発を苦笑しながら振り返る。

「でもね、何か考え方が変わったというか、自分でいろいろなことを考えられるようになったんじゃないですかね」

　教え子の変化を、しっかり感じていた。

【次ページ】　どうあがいても甲子園には届かない。