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当初はコーチ、QBが拒絶反応も……。
日大アメフト部と新監督の1年半。
posted2019/12/06 20:30
text by
杉山孝Takashi Sugiyama
photograph by
Kiichi Matsumoto
「2 minutes!」
東京・下高井戸にある日本大学のグラウンド。アメリカンフットボール部の120人近い選手たちが、口々にそう叫びながら配置につく。
本場アメリカのプロリーグであるNFLでは、「2ミニッツ・ウォーニング」という制度が採用されている。前後半とも、残り2分で一旦時計を止めるのだ。テレビCMのためのシステムでもあるというが、“土壇場”をあおり、盛り上げる大きな効果もある。
その「2ミニッツ」を想定して、攻守両チームが激しくぶつかり合い、燃え上がる。その姿に、橋詰功監督が厳しさと優しさが同居するまなざしを向けていた。
日大アメフト部は、昨年途中に新監督を迎えた。日本中を巻き込んだ「悪質タックル問題」で、部の体質改善が求められたからだ。
歓迎ではなく、強い拒絶反応。
選ばれたのが、立命館大学のライスボウル連覇にコーチとして貢献した橋詰氏だった。アメリカの強豪であるオクラホマ大学に留学して学んだ理論やトレーニング法を母校・立命大でアレンジしたものを携えて、傷ついた名門校へとやって来た。
「橋詰流」では2時間前後の練習に、ポジションごとに分単位で区切ったメニューを凝縮する。冒頭の「2ミニッツ」も、その1つ。給水やトイレには各自がタイミングを見計らって動き、全体の濃厚さには休憩を挟む隙間さえ存在しない。
立命大を日本一に押し上げた、理論的な練習であるはずだ。だが、待っていたのは歓迎ではなく、強い拒絶反応だった。
27年ぶりに甲子園ボウル優勝に輝いた前監督の時代、日大の練習は「エンドレス」だった。プレーが成功するまで終わらない、心身を追い込むトレーニング。その色濃い闇がにじみ出たのが、大問題となった「あのタックル」だったのだろう。
一方、光となって表出したのが2年前の学生日本一だった。その甘美な思い出と180度違う哲学に、選手たちは戸惑い、反発する者も出た。見知らぬ手法に混乱したのではない。それまでの自分たちを「全否定」されたように感じてしまったのだ。