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レッドブル・ホンダ、進歩の1年目。
3つの勝利以上に互いの敬意が尊い。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2019/12/08 19:00
最終戦アブダビGPを2位で締めくくったフェルスタッペンは、レース後ドーナツターンを披露。
レッドブルが認めた車体の「非」。
車体が悪いのか、PUの性能が足りていないのかは、外部の者にはわかりづらい。例えば、ストレートスピードはウイングの角度ひとつでいくらでも変化するからだ。
したがって、思っていた通りのタイムが出ないと、往々にしてチーム関係者はその責任をPUの性能にしたり、車体とPUを一括りにして「パッケージが悪い」という表現で真の原因を誤魔化すことが多い。
しかし序盤戦で思うような成績が出せないレースが続いたとき、レッドブルの首脳陣はホンダに対して「正直に『車体が悪い』と言ってくれた」(田辺豊治ホンダF1テクニカルディレクター)という。
もちろん、ホンダもそれを責めることはしなかった。なぜなら、その時点でホンダのPUもまだライバルに対して劣っていたことを認めていたからだ。
PUと新車体が揃い、初勝利。
レッドブルとホンダは責任の所在を探すことより、どうすればライバルに追いつけるかについて、建設的な話し合いを行うことを優先した。
「ストレートスピード、高速コーナー、中速コーナー、低速コーナーのそれぞれについて、ライバルに対してどこでどれだけ負けているか、空力なのかメカニカルグリップなのか、あるいは馬力なのかについて、データを見ながら、レッドブルのエンジニアたちはきちんと説明してくれました」(田辺)
これに基づき、ホンダもPUの開発に関するロードマップを提示した。それに沿って7月に投入されたスペック3のPUは、ホンダが事前に示していた通りの性能向上を実現していた。時を同じくして、レッドブルもオーストリアGPに新しいフロントウイングを投入。
「すべてのコーナーで格段にマシンが安定した」というフェルスタッペンが、ホンダF1復帰後の初勝利を飾ったのは奇跡でもなんでもなかった。
レッドブルとホンダの関係が、自チームで車体とPUを製造するワークスチームと呼ばれるメルセデスやフェラーリに負けないほど強固なものになっていることは、今季最終戦となったアブダビGPでも垣間見えた。
アブダビGPの予選でレッドブル・ホンダはメルセデスに歯が立たなかった。メルセデスとの差は、低速コーナーが多い最終区間だった。それは車体のダウンフォースが足りていないことを示していた。しかし、そのことをホンダは口にしなかった。