セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
冨安健洋復帰はボローニャの希望。
初CBで2失点も拍手が起きた理由。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byUniphoto Press
posted2019/11/28 11:40
初のセンターバック出場で2失点。それでもボローニャファンは冨安健洋に熱い声援を送った。
チームに“守って勝つ”発想はない。
チームは4連敗必至の状況に追い込まれていた。大詰めの95分、左CKの流れから主将ジェマイリが豪快なボレー弾を叩き込み、ボローニャは土壇場でドローに持ち込んだのだ。観客もドラマチックな同点劇に沸き立った。
だが、殊勲弾を決めたジェマイリも冨安も、試合後にそれぞれチームは今、苦境にあるという旨の発言をした。
ボローニャは苦しんでいる。現場の選手たちは、それを敏感に感じ取っているのだ。少々乱暴な言い方をすると、今季のボローニャは“守って勝つ”という発想を捨てている。
13節終了時点で、完封した試合は2試合のみ。失点のリスクを背負いつつ、相手陣内で前がかりに点を取りにいく強攻スタイルを貫いている。
昨季の成功体験と指揮官の処遇。
のるかそるか、ハイリスク・ハイリターンの丁半博打サッカー。
拠り所となっているのは、ミハイロビッチ体制となり17試合で勝ち点30を勝ち取った昨季後半戦の成功体験だ。当然守備陣の負担もストレスも半端ではないが、主将ジェマイリもコーチ陣も「昨季後半戦の俺たちに戻らねば」と異口同音に繰り返している。
とはいえ違和感というか危惧を覚えるのは、彼らはチーム構成がほぼ一新された現実を直視せず、昨季の再現という幻想に憑りつかれているのではないか、という点だ。
特に中盤から後ろの守備陣は、GKスコルプスキとCBダニーロを除いてほぼ一変した。戦法も今季向けにアップデートして然るべきなのだ。
指揮官ミハイロビッチの処遇も気がかりだ。
パルマ戦前の20日、白血病を患う彼が3度目の集中治療入院を終え、練習場を訪れた。先月下旬の骨髄移植手術を経てやつれた身を晒しながら、なおグラウンドに立とうとする闘将の生き様は壮絶としか言い様がない。