クライマーズ・アングルBACK NUMBER
16歳の天才少女が東京五輪急浮上。
“03line”クライマー、森秋彩の欲の形。
posted2019/11/27 18:00
text by
森山憲一Kenichi Moriyama
photograph by
Kenichi Moriyama
カメラのファインダーで彼女を追っていた私は、その瞬間、「落ちた!」と思った。
ところが、ファインダーから姿を消したはずの彼女は、どういうことか、まだファインダー内にとどまっている。重力を無視したかのような、ちょっと考えられない体勢で。その手には吸盤でも付いているのか。
こういうひやっとするムーブの後は、そこでパワーと集中力を使い果たし、いずれ落ちてしまうのが普通だ。しかし彼女は、その後もじりじりと苦しい一手をのばし続けていく。信じられない持久力。
ゴールのホールドがもう目の前に来た。腰を落とし、タイミングを測る。観客が息を飲む。
ダブルダイノ(両手での飛び付き)でゴールホールドをとらえたとき、歓声は最高潮に達した。12日間にわたった世界選手権。そのなかで、会場がもっとも揺れた一瞬がここだったように思う。
森秋彩、当時は15歳。
これは8月に東京・八王子で開かれたクライミング世界選手権・女子コンバインド種目リードでの1シーンだ。
「スピードとボルダリングで出遅れていたので、リードではなんとか挽回しなきゃと思って必死に登りました。落ちそうになったところはホールドが届かなくて……。ああいう危ない動きで切り抜けるしかありませんでした」
彼女の名は森秋彩(もり・あい)。2003年9月17日生まれの森は、この時点でまだ15歳。初の世界選手権参戦で、リード単種目では3位に入り、冒頭の爆発的なパフォーマンスでコンバインド種目も6位。オリンピック代表候補に名乗りをあげた。