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水球の日本一決定戦は価値観の争い。
禁断の戦術を貫いた大本洋嗣の覚悟。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKei Nakamura
posted2019/11/05 08:00
代表合宿でのワンシーン。ここにもKingfisher74とブルボンウォーターポロクラブ柏崎の選手が数多く含まれている。
対照的な戦術の相手に負けられなかった。
国内2強の一角、ブルボンはゆっくり攻めて、ゆっくり守るという水球のスタンダードを貫いている。それだけに日本選手権でKingfisher74は負けられなかったのだ。
Kingfisher74は第3ピリオドで9-8とブルボンに1点差まで詰め寄られたが、最後はカウンターを立て続けに決め14-10と突き放した。
負けたら、また日本代表のどこが軋みをあげるかわからない。
日本代表の戦い方は、今もぎりぎりのところで保たれているように映る。引いた方が体力的にも精神的にも圧倒的に楽だからだ。
パスラインディフェンスは、現金をたくさん置いた家の鍵を開けたまま、長時間、留守にするようなものだ。そうして相手をおびき寄せ、さらなる財宝を奪いに行く。失敗したら、取られっぱなしになる。相当なストレスだ。
これは戦術というより、決意の話。
パスラインディフェンスは戦術と言うより、決意の別称と言った方がいいのだろう。
日本はスタミナとスピードは世界一だ。それでも埋まらない部分を覚悟で補っているのだ。生半可な心構えではない。文字通り、肉を切らせて骨を断つ覚悟だ。
東京五輪は水球日本代表にとって、一世一代の大博打になる。覚悟さえ固めることができれば「奇跡」が起きる確率は上昇する。もちろん、その反面、盛大に負ける可能性も常にはらんではいるが。だが、大敗したらしたでそれもおもしろいではないか。善戦を目指して中途半端に敗れるより潔い。
どちらに転んでも見逃がす手はない。
日本代表は現在、およそ2カ月にわたるヨーロッパ遠征中だ。年が明けると、2月にアジア選手権、4月に世界一のイタリアを招へいしてのテストマッチ、5月にはワールドリーグ2020インターコンチネンタルカップ等が控えている。
五輪本番まで、日本代表は命がけという言葉を比喩ではなく現実のものとして感じられるようになるための戦いを続ける。オーバーな言い方をすれば、現代のビジネスマンが侍になるための挑戦だ。
今の日本の水球は、じつにエキサイトだ。少なくとも、新聞で一行も触れられないほど退屈なものではない。