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競泳を引退してもなお続く
松田丈志のスポーツ愛。

posted2019/09/04 11:00

 
競泳を引退してもなお続く松田丈志のスポーツ愛。<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

text by

林田順子

林田順子Junko Hayashida

PROFILE

photograph by

Kiichi Matsumoto

 アテネ、北京、ロンドン、リオとオリンピックに4度出場し4個のメダルを獲得した松田丈志は、身体を動かす喜びこそが自分の原点であり、今でも一番の楽しみであると語る。引退してもなお、世界のトップスイマーを魅了し続けるスポーツの楽しみ方を聞いた。

 スポーツの良さ、素晴らしさを伝える立場にいる人間としては、引退はしたけれど、いつでも動けるような体でいたいと思っているんです。

 ありきたりかもしれないけれど、僕のベースはやっぱり体を動かすことが好きで、楽しんでやっているということ。それを突き詰めて、突き詰めて、突き詰めていった結果がオリンピックのメダルでした。

 現役中は競技の世界にいるというのは当たり前のことで、その種目を突き詰めて、自分を高めていくことが目標であり、仕事でもあったわけです。けれど、その世界から降りたときに、それでもやっぱり自分はやるだけに限らず、見ることも含めてスポーツが好きなんだ、と再認識しました。

松田を変えた北島康介の金メダル。

 アテネで初めてオリンピックの日本代表に選ばれたとき、事前のミーティングなどで、監督やコーチが「チームで戦うんだ」としょっちゅう言っていたんですよ。でも、その時の僕にはその意味がわからなかった。最終的には1人で泳ぐものだし、自分のやるべきことをやって自分自身を高めていくだけだと思っていたんです。

 ところが自分の力を発揮することすらできなくて、メダルを狙っていた種目でさえ、準決勝で敗退。全然ダメだなと思っていたら、(北島)康介さんがみんなの期待に応えて金メダルを取ったんです。そのとき、日本代表のスタッフやチームメイトが自分のことのように喜んで、抱き合って、涙していて。そういう姿を間近で見たときに、これだけ周りから応援される人がオリンピックで勝つんだなと思ったし、そこで初めてチームの力というものを感じました。

 最後は1人で戦うのかもしれないけれど、周りのサポートやあいつに勝ってほしいという思いが、最終的には力になるんだと自分との違いを痛感させられたんです。

 オリンピックという大きな舞台で戦うには、1人で頑張るだけではダメなんです。そのためには長い時間をかけて人間関係を築いていって、日本代表チームを自分にとって居心地のいい場所にしていくしかないんですよね。アテネではいきなり日本代表に選ばれたのですが、もっと継続的に日本代表に選ばれて、コーチやスタッフ、チームメイトとできるだけコミュニケーションをとる時間を作らないといけないんだと思いました。

 周りとの連帯が深まると、自分の経験だけではわからないこと、経験できないノウハウを吸収しながら、自分が速くなるためにはどうしたらいいのかということを考えられるし、ときにはサポートしてもらえるようになってくるんですね。自分の成長スピードも上がるし、スタート台に立った時もみんなの応援がすごく追い風になるんだと、その後のオリンピックで実感しました。

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