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水球の日本一決定戦は価値観の争い。
禁断の戦術を貫いた大本洋嗣の覚悟。
posted2019/11/05 08:00
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Kei Nakamura
やや驚いた。
10月6日、辰巳国際水泳場で水球日本選手権が開催された。言わずもがなだが、1年に一度、水球日本一を決める日本水球界の最大のイベントである。
にもかかわらず、私が定期購読している大手全国紙、大手スポーツ紙いずれも、結果の一行さえも掲載されていなかった。ネットで検索すると数紙の短い記事が引っかかったが、その程度だった。
水球男子日本代表監督と、クラブチームKingfisher74の監督を兼務する大本洋嗣は、こう嘆息する。
「どうなんですかね。もちろん、こちらにも問題はあるんだろうけど……」
Kingfisher74はほぼ日本代表。
正直なところ、世間の注目度はそれくらい低かった。だが、今年の男子決勝の現場は、例年以上に白熱していた。
決勝カードは、昨年と同じKingfisher74とブルボンウォーターポロクラブ柏崎。大本が試合後、「今年は勝ちにいったので」と再三、繰り返したようにKingfisher74にとって、絶対に負けは許されない試合だった。その理由は2つある。
Kingfisher74の前身は全日体大で、通算39回の優勝を誇る水球界の絶対王者だ。代表選手を常に10人前後擁している。Kingfisher74は「ほぼ日本代表」といっても過言ではない。にもかかわらず、昨年はブルボンに敗れている。
勝負ごとゆえ、負けることもある。しかし、2年連続負けるわけにはいかなかった。大本が言う。
「負けたら、強化費や選考のことも含めて、外野からいろいろ言われますしね。Kingfisher74は企業からもお金をもらっているので、結果を残し続けないといけない」
そして、もう1つの理由。大本が日本代表の「一丁目一番地」だと語る、禁断とでもいうべき戦術の優位性を証明し続けるためにも、負けられなかった。