マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
嫌いなドラフト用語「指名漏れ」。
プロに進むタイミングは1つじゃない。
posted2019/10/25 11:30
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Hideki Sugiyama
「○○が、もう野球やめるって言うんです、指名されなかったもんですから。一応プロ待ちで進路は決まってるので、ほんと、困ってまして……」
ある指導者の方からショッキングな電話をもらったのは、ドラフトが終わった翌日だった。
もちろん、プロ志望届は出していた。
もともとは、プロ志望ではなかったそうだ。むしろ、プロのほうから「指名したいから出してもらえませんか」と水を向けられたようだ。
調査書も届いて、それをきっかけにするように、他球団からもいくつか調査書が届き、本人もだんだんとその気になって、楽しみにして迎えた「ドラフト」だったという。
なのに、よもやの指名見送り。
本人、大ショックで、もう心が折れました……とガックリしているらしい。こいつには負けてない! とライバル視していた選手たちに軒並み声がかかったのも、彼の心をいたく傷つけたようだ。
「プロ待ち」を破棄するのは大変。
もともとがプロ志望じゃなかったから、内定していた先方には「プロ待ち」の扱いにしてもらったので、“宙ぶらりん”ということはないのだが、もし本当に野球をやめてしまうとなったら、プロ待ちまでしてくれた先方に申し訳が立たない。
指導者の方は、頭を抱えてしまっている。
「プロ待ち」というのは、選手本人がプロ志望の場合、もしドラフトで指名されなかったらウチに入ってください、それまでお待ちします……という進学先、就職先の「ご厚意」の上に成り立っているありがたい「慣習」である。
なので、指名なしの場合には、待ってくださってありがとうございます、とそこへ進むのが“筋”であり、もしもそれを破棄した場合は、待っているほうには「欠員」ができてしまって、多大な損失と迷惑をかけることになる。
多くの場合、その学校と先方との間は決別ということになり、後輩たちにも大きな影響が出ることになるのだから、指導者の方が頭を抱えるのも自然なことなのだ。