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通過した。超えた。応援した。現れた。
敗れても消えぬ最高のラグビーW杯。 

text by

金子達仁

金子達仁Tatsuhito Kaneko

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photograph byNaoya Sanuki

posted2019/10/25 11:50

通過した。超えた。応援した。現れた。敗れても消えぬ最高のラグビーW杯。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

手も足も出なかった南アフリカ戦。それでも最高瞬間視聴率は50%を越えるなど、ラグビーW杯は国民的関心事となった。

試合開催は簡単なことではなかった。

 だが、彼らがどれほど怒りと闘志をかきたてたところで、物理的に、あるいは社会情勢を鑑みて、試合を決行するのは簡単なことではなかった。交通網は乱れている。スタジアム周辺には水害の危険があり、そして何より、日本全国で財産を、あるいは命を失った方々がいた。

 試合を中止していれば、スコットランド人は激怒しただろう。それでも、激怒した人と同じぐらい、ひょっとしたらもっと多くの人たちが、「仕方がない」と考えたはずである。

 台風19号は、それぐらいの激甚災害だった。そして、この未曾有の天災を理由に試合を中止していれば、日本は初の決勝トーナメント進出を果たすことができた。

 日本人は、試合をやりたがらないのではないか──。

 ジェントルな世界のラグビー関係者たちは、誰も口にしなかった。けれども、ニュージーランドvs.イタリアやナミビアvs.カナダを中止にしておいて、日本vs.スコットランド戦は強行する理由を、果たしてどれだけの第三者が見出せていただろうか。

 それでも、試合は行なわれた。

世界のスポーツ史に残るフェアプレー。

 避けていれば賛否両論を巻き起こし、しかしベスト8の座が約束された「試合中止」という決定を、誰よりも傷つき、誰よりも恩恵を受ける立場の側が「中止回避」のために死力を尽くした。一生懸命やったフリをして、でもやっぱりダメでした、ごめんなさい、スコットランドの皆さん、ではなく、災害に見舞われたことなど微塵も感じさせない、最高のコンディションとシチュエーションを提供して見せた。

 日本人が、自分たちの素晴らしさや優位性を殊更に強調したり、外国人に日本という国を称賛させたがる昨今の風潮が、わたしはあまり好きではない。

 だが、逃げることが許される場面から逃げず、真正面から強敵と対峙する道を整え、一分の油断すらなかったはずのスコットランドを撃破したことは、日本スポーツ史上どころか、世界のスポーツ史上に残る世紀のフェアプレーであり快挙だとわたしは思う。

 情けは人のためならず、というのは本当だったらしい。

【次ページ】 最後の勝利がサモア戦だったら……。

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