ラグビーPRESSBACK NUMBER
通過した。超えた。応援した。現れた。
敗れても消えぬ最高のラグビーW杯。
text by
金子達仁Tatsuhito Kaneko
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/10/25 11:50
手も足も出なかった南アフリカ戦。それでも最高瞬間視聴率は50%を越えるなど、ラグビーW杯は国民的関心事となった。
完敗でも、500点分ぐらい残っていた。
圧倒的な高揚感と、多幸感を覚えながら迎えた準々決勝、南アフリカ戦のキックオフ。
どんな結果になろうとも、この気持ちは揺るがないはずだと信じていた。
試合が終わった時、はち切れんばかりだった高揚感と多幸感が幾分、いや、かなり削られてしまったという自覚はあった。それぐらい、南アフリカは強かった。26人で4試合を戦い、刀は折れ、矢はつきる寸前だった日本が、鉄の壁に叩きつけられる卵のようにすら見えてしまった。
だが、ゼロにはならなかった。
1つの大きな惨敗は、それまでの高揚感をきれいさっぱり消し去ってしまう。フランス・ワールドカップの3戦全敗は、ジョホールバルの歓喜を消した。日本シリーズ4戦全敗の衝撃は、'05年の阪神ファンを叩きのめした。
なのに、手も足も出なかったように見えた南アフリカ戦の敗戦は、かなりの部分、それまでのポジティブな感情を削り取ったにも関わらず、壊滅はさせなかった。
100点満点で1000点を取ったつもりになっていたら、世界の頂点は1万点満点だったと宣告されたようだったのに、まだ500点分ぐらい、高揚感や多幸感が残っていた。
たぶん、それには2つの理由がある。
1つはスコットランド戦があったから。
1つは、今回のジャパンとこの国のなし遂げたことが、あまりにも大きかったから。どれほどの惨敗をもってしても、消し去ることができないぐらいに大きかったから。
そしてもう1つは、あのスコットランド戦があったから。
もし試合が中止になるようなことがあれば、ワールドラグビーを訴える──後に大問題となったスコットランド関係者の発言に、日本の選手たちは怒りを、いや、闘志をかきたてられていたという。
堀江翔太はいった。
「やれば勝てる。だからやらなかったら訴える。そう考えたわけでしょ? つまり、日本には問題なく勝つつもりやと。俺らもナメられたもんやな。そう思いました」