球体とリズムBACK NUMBER
英国で起きた指導者の人種差別と、
曹貴裁前監督の処分で感じたこと。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byGetty Images
posted2019/10/29 11:00
湘南ベルマーレはJ1残留を目標に戦っている。降格となれば、クラブだけでなくファンにも、その影響は計り知れない。
湘南の短期的な目標とともに……。
結局、現場に戻れる状態ではない曹前監督が退任する形でベルマーレは新体制へ移行。浮嶋敏新監督のもとで、10月19日の横浜F・マリノス戦に臨んだが、1-3で敗れて4連敗を喫し、ついに昇降格プレーオフ圏の16位に沈んだ。試合後、選手や監督は「前節までの状態よりも良くなった」と異口同音に話した。プレースタイルについては、曹前監督のもとで培った“湘南スタイル”を続けていくという。
どんな形であれ、騒動に終止符が打たれ、懸命に前を向こうとしているのだろう。すでにチームも被害を受けていると言えるが、もし降格するようなことになれば、目も当てられらない。残り5試合、なんとか踏ん張ってほしい。
湘南のJ1残留が短期的な目標だとすれば、日本社会とサッカー界に問われる長期的な課題は、曹前監督にいかにセカンドチャンスを与えるかだと思う。
彼の言動によって深く傷ついた人がいた。おそらく、彼は好き嫌いのはっきりした性格なのだろう。フットボールと感情の関係性を、どこかで履き違えてしまったことがあったのかもしれない。
ただし、この競技の指揮官として優れた面を持っていたのも間違いない。限られた予算規模のチームを鍛え上げ、唯一無二のスタイルで強豪を破るまでにし、昨季はリーグカップを制した。また今季のJ1第12節浦和戦のように、極めて劇的な勝利を演出することもあった。そして彼の「厳しい指導が受けたくて、湘南に来た」と公言する選手はたくさんいる。
通報を、どう受け止めていたのか。
実は7月14日のJ1第19節ヴィッセル神戸(3-1の勝利)後の記者会見で、曹前監督は珍しく弱気なところを見せていた。
「監督って孤独。今年はそれをあらためて感じています。(中略)最近は、組織、この生き物を動かす難しさをすごく感じている。自分ひとりの時間になるのが嫌。考えすぎちゃうんです。だから皆さん、遊んでください」
最後はいつものように聴衆の笑いを誘っていたが、彼にも繊細な一面はあるのだ(数日前に通報があったことを踏まえると、あるいは何かを感じていたのかもしれない)。そして件の調査結果を受けて、クラブが今後の対応を発表した10月4日の記者会見には憔悴した姿で登壇した。きっと今も猛省していることだろう。