球体とリズムBACK NUMBER
英国で起きた指導者の人種差別と、
曹貴裁前監督の処分で感じたこと。
posted2019/10/29 11:00
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
Getty Images
湘南ベルマーレの曹貴裁前監督の、試合後などの会見は面白かった。
質問をすると、期待以上の回答が得られることは何度もあったし、選手の意外な側面を教えてくれることもあった。自身が現役引退後に過ごしたドイツをはじめ、欧州のフットボールを引き合いに出しながら事象を説明することも多く、世界に興味を持つ人々の好奇心をくすぐったりもした。記者が勝利を祝福した際には、「ありがとうございます!」と元気に返答していたものだ。
でも、もう彼の会見を聞くことはできない。少なくとも、当分のあいだは。
8月中旬にパワーハラスメントの疑惑が浮上し、およそ2カ月に及ぶ調査の結果、10月上旬にクラブと監督に制裁が科され、数日後に監督は退任。当初、一般の会社や組織で問われるコンプライアンスを、プロスポーツのクラブ(特に練習や試合などの現場)にそのまま当てはめるのかと思ったけれど、選手だけでなくスタッフにも被害があったという調査結果が出たのだから、納得はできた。
何より、辛い思いをした方の存在にも気づかされた。
タフに選手を鍛え上げることに定評のあった指揮官だが、その指導法にはパワハラに当たる数々の言動があったと認定された。それを見過ごしていた(あるいは気づかなかった)クラブ側も、咎められて然るべきと言える。Jリーグや湘南が現代社会の一員として存続していくには、制裁(監督には5試合出場停止とけん責、クラブには罰金200万円とけん責)は免れられないものだった。
英国で起きた“人種差別”問題。
約ひと月前、フットボール発祥地イングランドでも、似たような案件に決着が着いた。
今年1月、ニューカッスル・ユナイテッドのU-23チームを指導していたピーター・ベアズリーが、モロッコ系イングランド人選手ヤシン・ベン・エル=ムハンニに向かって差別的な言葉を使って虐めたという疑いが浮上した。数カ月にわたるフットボール協会(FA)の独立パネルによる調査の結果、9月中旬にベアズリーに7カ月半の活動禁止処分が下された。
地元ニューカッスルはもちろん、リバプールなどでも活躍した元イングランド代表MFは、エル=ムハンニを「モンキー」と呼んだり、有色人種が年齢詐称を企んでいるとの古い固定観念を持ち出していたことなどが証言されている。