Jをめぐる冒険BACK NUMBER
勇敢なミシャ札幌、川崎との大激闘。
2019年ルヴァン決勝に敗者はいない。
posted2019/10/28 18:00
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
Kiichi Matsumoto
3-3という、およそファイナルらしくないスリリングな点の取り合いになったのは、先制点をもぎ取ったチャレンジャーが、勇敢な姿勢を貫いたからに他ならない。
10月26日に行なわれたルヴァンカップ決勝は、J1を2連覇中で、カップ戦5度目のファイナルとなる川崎フロンターレと、初のファイナル進出となった北海道コンサドーレ札幌の顔合わせとなった。
「クラブの力の差はやる前から分かっていた」と野々村芳和社長も認めたように、経営規模や選手層、経験値など多くの面で、札幌が川崎の後塵を拝していたのは、間違いない。
強者から先制点を奪った挑戦者が、虎の子の1点を守り抜こうと、自陣に引きこもってしまうのは、よく見られる光景である。
しかし、札幌がその選択肢に手を伸ばすことはなかった。
「すごく攻撃的なゲームになったけど、ミシャ(札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督)のサッカーが引き出してくれたところがかなりある。さっき、ミシャとちょっと話したんですけど、『本当にありがとうございました』と伝えました」
そう語ったのは、これが自身4度目のカップ戦決勝となった中村憲剛である。
好ゲームは“共同作業”によって生まれる。
その言葉を聞いて、改めて思わずにはいられなかった。
好ゲームというのは、両チームの“共同作業”によって生まれるものだ――、と。
主役は勝ったチームだが、敗れたチームが"グッドルーザー"たり得るパフォーマンスを披露しなければ、主役は引き立たないし、試合内容も引き締まらない。
好ゲームを演じる両チームは、ある種の共犯めいた関係性でなければならないわけだ。その点、攻撃的なスタイルを掲げる川崎と札幌は、まさに好敵手だった。
もっとも、札幌を“グッドルーザー”と言ってしまうのは、気が引ける。PK戦という”くじ引き”によって決着をつけただけで、120分の間に札幌が敗れたわけではないからだ。
そう、27回目のルヴァンカップは、敗者のいないファイナルだったのだ。